公訴時効の廃止及び大幅延長に関する会長声明

本日、公訴時効制度の廃止並びに大幅延長を含む「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」が衆議院本会議にて可決し、成立した。


当連合会は、同法案に対し、わが国の公訴時効制度を事実上否定するものとして危惧の念を表明してきたが、今国会における拙速とも言える極めて短期間の審議によって立法がなされたことは誠に遺憾である。


今回成立した法律は、法定刑に死刑がある罪については公訴時効を廃止し、永遠に被疑者を捜査し起訴することができるという強大な権限を検察当局に認めるものである。


しかも、この法律は、現に時効が進行中の事件についても公訴時効の廃止及び延長することを認めるものである。これは、2004年の法改正により公訴時効期間の延長がなされた際にも認められなかったものであり、「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない」とする憲法39条の趣旨に違反する強い疑いがある。


この法律により、何十年も経過した後に殺人罪などで起訴される被告人が、防御権を尽くすことができないために有罪となり、新たなえん罪の被害者を生み出すことがあってはならない。


そのためには、早急に、以下に述べる課題を検討し、捜査の在り方を根本的に改めるための法整備を進める必要がある。


第1に、えん罪防止の観点から、長期間経過後に訴追された被疑者・被告人がその防御権を十分に尽くすことができるよう、捜査資料や証拠物が適正に保管されることが不可欠である。捜査機関以外の第三者機関による保管体制の確立も含めて、公正かつ中立的な保管の在り方を検討する必要がある。特に、事後の検証を可能とするために、捜査機関が作成・収集した全ての証拠物等の保管、その目録の作成及びこれらの弁護人への全面的開示など、証拠物等を被疑者・被告人の反証に積極的に利用できるようにする措置を講ずるべきである。


第2に、これまで取調べ段階での虚偽の自白によりえん罪事件が発生してきたことにかんがみ、政府において検討されている取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を早期に実現するとともに、弁護人の立会いや取調べ時間の規制等、取調べの公正性を実効的に確保する措置についても早急に検討する必要がある。


当連合会は、以上のような捜査の在り方を根本的に見直すことなくして、公訴時効の廃止・大幅延長のみ行われることに危惧し、捜査の在り方を改めるための上記法整備を行うことを強く求める。


2010年(平成22年)4月27日


日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児