人種差別撤廃委員会の総括所見に対する会長声明


 

人種差別撤廃委員会は、2008年8月に提出された人種差別撤廃条約の実施状況に関する第3乃至第6回日本政府報告書に対し、2010年3月16日、総括所見を発表した。

 

総括所見では、差別禁止法が制定されていないこと、国内人権機関が設置されていないこと、同条約に定める個人通報制度の受諾宣言が未だなされていないこと、公務員や法執行官らに対する人権教育が普及されていないこと、家庭裁判所における調停委員に外国人が参加できないこと、外国人学校に対する不平等扱いが存在することなど、35項目におよぶ懸念表明がなされ、是正勧告がなされている。

 

日本政府は、同条約4条(a)(b)を留保し、差別禁止法の制定の必要がないとしているが、インターネット上や街宣活動で被差別部落の出身者や朝鮮学校の生徒等に対する人種差別的な言辞が横行している日本においては、法律による規制を真剣に検討する必要がある。

 

国内人権機関の設置は緊急の課題である。パリ原則(1983年国連総会決議)に則り、独立した調査権限、財政的・人的基盤を有する国内人権機関の早急な実現が求められる。

 

公務員や法執行官らに対する人権教育については、これまでも自由権規約委員会から2回にわたる指摘と勧告を受けている。それにもかかわらず、政治家や公務員による人種差別認容発言が続いており、人権意識を促進するために早急な人権教育の実施が求められる。

 

個人通報制度についても直ちに受諾の宣言がなされるべきであり、国際人権法を個々の人権侵害からの救済に活かすためには必要不可欠である。

 

調停委員は公的な決定権限を有するものではないことからも、最高裁の外国籍調停委員の不採用対応を早急に改める必要がある。

 

外国人学校の中で、税制上の優遇措置や大学入学資格に差があることや、朝鮮学校が、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律から排除されていることは、いずれも教育における差別であって、早急に解消する必要がある。

 

その他、部落問題、アイヌ問題、沖縄問題等の個別問題についても差別の存在が指摘されている。

 

日本政府は、同委員会から懸念を表明され、勧告を受けた事項を真摯に受け止め、改善措置に向けた取組をすべきである。

 

当連合会も、同委員会から懸念を表明され、勧告を受けた課題の解決のために全力を尽くす所存である。

 

2010年4月6日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児