中国政府の邦人に対する死刑執行通告に関する会長声明

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中国政府は、麻薬密輸の罪で死刑判決が確定している日本人男性に対し近く死刑を執行すると、3月30日までに日本政府に通告したとのことである。

 

しかしながら、わが国が批准し、中国がすでに署名している国際人権(自由権)規約(以下「規約」という。)の第6条2項は、「死刑を廃止していない国においては、死刑は、犯罪が行われた時に効力を有しており、かつ、この規約の規定及び集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約の規定に抵触しない法律により、最も重大な犯罪についてのみ科することができる。」としており、自由権規約委員会は、その一般的意見6(16)において「『最も重大な犯罪』 の表現は死刑が全く例外的な措置であることを意味するように厳格に解釈されなければならない」と述べている。「最も重大な犯罪」とは、少なくとも人の死という結果を伴う犯罪に限定されることを意味するのであって、現にイラン政府に対する自由権規約委員会の総括所見(1993年)において、自由権規約委員会は、規約第6条の観点から、経済犯罪や人の死という結果を伴わない犯罪に対して死刑を科すことは規約に反すると明言しており、さらに、タイ政府に対しては、死刑が規約第6条2項が示す「最も重大な犯罪」に限定されず、薬物の違法取引に適用されうることに懸念を表明している(2005年)。

 

自由権規約委員会や日本が理事国を務める国連人権理事会は死刑廃止を視野に入れて死刑の適用が可能な犯罪の削減を求めている。同様の事態がヨーロッパの国民について生じた場合、政府は前面に出て、自国民の処刑を避けるためにあらゆる手段を執るはずである。日本は死刑制度の存置国ではあるが、同様の犯罪の場合には無期刑が最高刑であり、死刑の対象とはされていない(覚せい剤取締法第41条2項)。国内法では死刑を科し得ない事件について、国際人権基準に明確に反する死刑によって日本国民の生命が奪われようとしている事態を座視するべきではない。

 

内閣総理大臣、官房長官はこの死刑の執行予定に関して既に「懸念」を表明されたと聞くが、当連合会は、わが国の政府に対し、規約第6条によって日本国民に保障された生命権を保護するために、死刑執行しないよう、中国政府に対して明確な要望をすべきことを求める。

 

2010年4月2日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児