足利事件再審無罪に関する会長声明

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宇都宮地方裁判所は、本日、菅家利和氏に対して再審無罪を言い渡した。

 

その中で、当時のDNA型鑑定の誤りと検察官の起訴後の取調べの違法性を指摘するとともに、「菅家氏の自白は、信用性が皆無であり、虚偽であることが明らか」とした。また、佐藤正信裁判長は、菅家氏に対し「菅家さんの真実の声に十分に耳を傾けられず17年半の長きにわたり、その自由を奪う結果となりましたことを、この事件の公判審理を担当した裁判官として、誠に申し訳なく思います」と謝罪し、この事件に込められた菅家さんの思いを深く胸に刻むことを表明した。

 

足利事件は、捜査機関と裁判所が当時のDNA型鑑定を過大評価し、自白を偏重して適正な判断をしなかったこと、裁判所が長い間DNA再鑑定を拒否するという非科学的態度をとったこと等の複合的な問題が顕在化した事件である。

 

これらの課題に対して、

 

  1. まず、任意性を欠く自白や虚偽自白を生じないよう取調べの可視化(取調べの全過程の録画)が必要不可欠であるが、未だ実現の目途が立っていないことは誠に遺憾である。
    本日の判決を契機としてただちにその実現を進めるべきである。
  2. また、冤罪を訴える者に適切に保管した資料をもとにDNA鑑定などを迅速かつ適正に受けられる権利を保障すべきである。
  3. 判決言渡しに際し、裁判長は「このような取り返しのつかない事態を思うにつけ、二度とこのようなことを起こしてはならないという思いを強くしています」と述べた。このような裁判所の反省を生かすためにも、誤判を生じさせた原因を徹底して調査する第三者機関をただちに設置すべきである。

 

本日の判決を受けて、当連合会も、司法の一翼を担うものとしてその責任の一端を痛感している。17年半もの間、不当にも身体を拘束され、心身共に重大な苦痛の中で無実を訴え続けて闘ってきた菅家氏のご苦労を思うとき、われわれは、冤罪に苦しむ人を救済するために、今後とも最大限の支援を惜しまない決意を改めて表明する。

 

最後に、当連合会は、艱難辛苦に堪えた菅家利和さんの今後が、穏やかで幸せに満ちたものとなることを心から願うものである。

 

2010年3月26日
日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠