家賃等弁済情報提供事業に反対する会長声明

政府が第174回通常国会に提出した賃貸住宅における「賃借人の居住の安定を確保するための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取立て行為の規制等に関する法律案」は、賃借人の居住の安定確保のため、家賃債務保証業者を登録制にして業務の適正化を図り、また、いわゆる「追い出し屋」による苛烈な取立てや鍵交換などによる住宅の使用阻害行為を禁止するなど、当連合会の意見に即した規制が盛り込まれた点は評価できる。


他方、同法案は、賃貸住宅の安定供給に資するとの観点から家賃債務や保証債務の弁済に関する情報を収集・提供する家賃等弁済情報提供事業(いわゆる家賃滞納情報等のデータベース化)を容認した。しかしながら予定されている制度は、必ずしも悪質とはいえない家賃不払いの履歴によって民間賃貸住宅市場から閉め出され住宅の確保ができなくなるハウジングプア層を増大させかねず、現時点では反対である。データベースに入力する情報の範囲、利用の限定、弊害の除去対策などにつき十分な検討がなされないまま同事業を実施することは、住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保を図るべき国の責務(住生活基本法6条、7条1項)にも反する。


同法案では、義務的登録制や業務規定の届出等の規制、目的外使用や漏洩禁止、さらには、賃借人等からの情報提供に関する事前同意の取得を要件にしてはいるものの、賃貸人やその審査代行者たる管理業者について義務的登録制はないから、これらの規制のみでは、ハウジングプア層の増大のみならず、家賃滞納情報を利用した入居差別や他のデータとの照合による架空請求やヤミ金などの悪徳業者への転売など悪用の懸念も払拭されない。


当連合会は、家賃等弁済情報提供事業の運用によって市民の居住の機会が奪われることのないよう、国会審議の場において同事業の抜本的見直しなど、同法案の大幅修正がなされることを求める。


2010年(平成22年)3月8日


日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠