横浜事件再審判決に関する会長談話

本日、横浜地方裁判所は、いわゆる横浜事件の第4次再審請求事件について、故小野康人氏に対し、免訴判決を言い渡した。


本件は、小野氏の遺族である請求人らが、(1)富山県泊での会合は日本共産党再建会議ではなく、(2)「改造」に掲載された細川嘉六論文は共産主義的啓蒙論文ではなかったから治安維持法違反に問われる事実ではなかったばかりか、(3)小野氏らの自白は特高警察の拷問による虚偽のものであるとして再審を求め、横浜地方裁判所が請求人らが提出した新証拠について、無罪を言い渡すべき新たに発見した明確な証拠であると判断し、再審を開始した再審公判である。


本判決は、「再審公判において直ちに実体判断をすることが可能な状態にある」としながらも、治安維持法が廃止され、免訴事由がある以上、実体判断(無罪判決)は下せないとして免訴判決を行ったものである。


この判断は、横浜事件第3次再審請求事件での免訴判決を是認した2008年3月14日の最高裁判決に従ったもので、無辜の救済が果たされることを期待してきた当連合会としては遺憾の意を表さざるを得ない。


しかし、本判決は、その理由中で、「横浜事件の歴史的背景事情、後に神奈川県特高による拷問が認定された有罪判決が存在すること、本件の確定判決は終戦直後の混乱期に言い渡されたもので、永久保存されているはずの事件記録が故意に廃棄されたと推認されること」などを認め、無罪判決により名誉回復を図ろうとしている請求人らの心情は理解できるとした上、刑事補償を受け得る可能性の強いこと、その刑事補償の手続の中でも名誉回復を図れることを強く示唆している。かかる意味で、本判決は、小野氏だけでなく、横浜事件のすべての犠牲者に対し、特高警察を含む司法の誤りを実質的に認めたものと評価できる。


治安維持法のもとで、苛烈な拷問を受け、又は思想信条の自由を侵害され、さらに、いわれなく職を奪われるなどの被害が起きたことは、日弁連も、人権救済申立事件における勧告などによって明らかにしてきたところである。


しかし、横浜事件の被害者を含め、治安維持法下の被害者に対して行われた人権侵害行為への謝罪や、身体を拘束され拷問を受けたことによる肉体的・精神的被害の補償などの救済措置は、戦後60年以上を経てなお行われていない。


日弁連は、本判決を機に、裁判所に対しては実質無罪の刑事補償を、国等に対しては、治安維持法下の被害者を救済する措置を早急に行うよう求めるものである。


2009年(平成21年)3月30日


日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠