水俣病の被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案についての会長声明

公害の原点といわれる水俣病は、その公式発見の時からすでに53年の歳月を経ているが、いまだに多数の被害者が救済されないまま放置されている。被害者の高齢化が進んでいるため、1日も早い全面解決は喫緊の課題である。


当連合会は、1981年以来、重大な人権問題である水俣病問題に関する調査研究を重ね、水俣病被害者の早期全面救済が図られるよう求めてきたが、残念ながら全面解決に至っていない。


自民党、公明党の両党は、2009年3月13日、「水俣病の被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案」を第171回通常国会に提出した。この法案は、(1)水俣病未認定患者の救済策、(2)チッソ株式会社の分社化、(3)水俣病の地域指定解除の3つをセットとしたものである。


しかし、(1)患者救済策は、2004年10月15日の水俣病訴訟最高裁判決で確定した国・県の責任を明示しない点、同判決認定額(400万円~800万円)を大幅に下回る低額の補償額(チッソからの一時金150万円、国からの月1万円の療養手当)である点、同判決より救済対象者の範囲を狭め、「四肢末梢優位の感覚障害を有する者(手足の先端ほどしびれの強い者)」に限定する点で、不当なものである。


(2)現時点での分社化は、収益をあげている事業部門を切り離す際の株式売却益の範囲内にチッソの責任を限定し、実質的に加害企業であるチッソの責任を免除するものであって、不当である。


(3)水俣病の地域指定は、救済措置の開始後3年以内を目途に救済対象者を確定した後に解除するものとされているが、水俣病認定の前提である地域指定が解除されれば、胎児性・小児性患者を含む潜在的被害者の水俣病認定申請の道が閉ざされ、被害者の切り捨てにつながりかねない。


以上のとおり、同法案は、被害者救済の観点から極めて不十分であり、本来救済すべき水俣病被害者を取り残したまま、水俣病問題を収束しようとするものであって、むしろ加害企業を擁護するための法案であるとの批判を免れない。


当連合会は、このような同法案に対しては強く反対するとともに、政府が水俣病最高裁判決を尊重して、水俣病被害者の早期全面救済を実現するために全力を尽くされるよう、強く求める。


2009年(平成21年)3月26日


日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠