「布川事件」再審開始に関する会長声明

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本日、東京高等裁判所第4刑事部は、請求人櫻井昌司氏、同杉山卓男氏に係る再審請求事件、いわゆる「布川事件」について、2005(平成17)年9月21日に水戸地方裁判所土浦支部が下した再審開始決定を維持し、検察官による即時抗告を棄却する決定を下した。

 

本件は、1967(昭和42)年8月に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件の犯人として請求人両氏が別件逮捕され、代用監獄での取調べ過程で自白させられたものの、第一審公判開始以来今日まで一貫して無実を叫び続けてきた事案である。1978(昭和53)年の上告棄却決定により無期懲役の判決が確定したが、本件確定判決の証拠構造は、請求人らと犯行とを結び付ける物証は皆無で、有罪の根拠は曖昧な目撃証言と矛盾・変遷が顕著な請求人らの自白しか存在しないという脆弱なものであった。

 

原審の決定は、このような脆弱な証拠構造を正しく分析し、白鳥・財田川決定をふまえて、再審になって初めて開示された証拠を含む多数の新証拠とともに旧証拠を総合評価したうえで、請求人らの自白は、虚偽の自白を誘発しやすい状況の下でされた疑いがあり、その自白の枢要部分が客観的状況と矛盾して信用性に欠け、確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じたとして、再審開始を認めたものである。

 

本日の決定は、新旧全証拠を総合評価し、目撃者の供述の信用性と、請求人らの自白の信用性のいずれについても重大な疑問が生じており、確定判決の判断を維持することはできないとして、再審開始決定を支持したものである。

 

また、本日の決定は、一旦否認した請求人らを再度、警察署に移監したことは「虚偽自白を誘発しやすい状況に請求人らを置いたという意味で」「大きな問題があった」と違法捜査によるえん罪であることを示唆している。確定審では、自白録音テープが自白の任意性・信用性の有力な根拠とされていたが、これら録音テープについては、「取調べの全過程にわたって行われたものではない上」「変遷の著しい請求人らの供述の全過程の中の一時点における供述に過ぎない」として、自白の信用性を補強するものではないとした。

 

誠に正当な決定であって、当連合会は、これを高く評価する。

 

検察官は、本日の決定を尊重し、特別抗告を断念するとともに、速やかに本件を再審公判手続に移行させるよう強く要請する。

 

1978(昭和53)年以来本件を支援してきた当連合会は、今後も、請求人らが無罪判決を勝ち取るまで支援を続けるとともに、請求人らの虚偽自白を生み出し、不法な取調べの温床となっている代用監獄の廃止、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)、証拠の全面開示の実現など、えん罪を防止するための制度改革を実現するべく全力を尽くす決意である。

 

2008年(平成20年)7月14日
日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠