広島刑務所長による面会拒否に対する広島弁護士会国家賠償請求訴訟最高裁判決に関する会長声明

本日、最高裁判所は、広島弁護士会が原告となって提起した国家賠償請求訴訟について、請求を一部認容して国に対して損害賠償の支払いを命じた広島高裁判決を破棄し、広島弁護士会の請求を棄却する判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。本件は、広島刑務所の受刑者が広島弁護士会に行った人権救済の申立てに関し、広島弁護士会会員が申立人の主張する事実を目撃したとされる他の受刑者との面会調査を申し入れたところ、刑務所長が旧監獄法45条2項を根拠として面会を拒否したことから、広島弁護士会らが国家賠償請求訴訟を提起した事案である。


本判決は、旧監獄法45条2項の規定の趣旨について、同条項は、接見の対象となる受刑者の利益と施設内の規律及び秩序の確保等の要請との調整を図るものであり、親族以外の者から受刑者との接見の申し入れを受けた刑務所長に対し、接見を求める者の固有の利益に配慮すべき法的義務を課するものではないとした。その上で、弁護士及び弁護士会が行う人権擁護活動が弁護士法1条1項ないし弁護士法全体に根拠を有するものであり、人権擁護委員会の調査活動が法的正当性を保障されたものであるとしても、法律上人権擁護委員会に強制的な調査権限は付与されておらず、刑務所長には接見の申入れに応ずべき法的義務は存在しないとして、国家賠償法上の違法があったということはできないとしたものである。


弁護士会の人権救済活動は、弁護士法1条1項に規定する弁護士の使命の実現のための活動であって、公正かつ厳格な手続、市民の信頼や従前の実績に裏付けられることにより、事実上の強い影響力を有しており、高い社会的評価を受けるに至っている。この活動は、刑事施設視察委員会が設置された今日においてもなお、刑事施設における個別の人権侵害事件の救済のために第三者たる機関が行うほとんど唯一の活動として、極めて重要な意義を有するものであって、強制的な調査権限が付与されていないことを根拠として、刑務所長の法的義務を否定した本判決の判断は受け入れがたい。


また、受刑者一般にとって、適正な外部交通が確保されることが、その改善更生及び円滑な社会復帰に資するものであることは言うまでもなく、このことは、旧監獄法の全面的な改正によって成立した受刑者処遇法ないし刑事被収容者処遇法においても明らかにされているところである。そして、外部の者との面会が有する積極的な意義に鑑みれば、旧監獄法45条2項の規定の趣旨について、本判決のように解するのは余りに狭きに失するものであり、旧法下での実務に関するものとはいえ、行刑改革の流れに逆行するものと言わざるを得ない。


受刑者処遇法の施行から2年が経とうとしているが、各地の弁護士会には、なおも被収容者から不当な外部交通の制約に対する救済を求める訴えが多く寄せられている。当連合会は、今後も、刑事施設運営の透明化、適正な外部交通の保障、人権擁護委員会による面会調査の確保・拡充を求め、引き続き、刑事拘禁制度の改革に取り組んでいくとともに、被収容者をはじめとする人権侵害を受けた者の人権救済活動に取り組んでいく決意である。


2008年(平成20年)4月15日


日本弁護士連合会
会長 宮﨑 誠