国立公文書館機能の強化に関する会長談話 -司法資料保存体制の強化を求めて-

10月19日、福田首相が国立公文書館を訪れ、「真実が国民の目に触れないのは民主主義にとって問題がある」とし、公文書館機能の強化に向けた法整備の重要性を強調したとの報道がなされました。


当連合会は、1985年における訴訟記録の保存立法に向けた取組みをはじめとして、裁判記録の保存活動を継続してきました。1986年には民事・刑事の裁判確定記録の保存立法に関する法律要綱試案を公表し、刑事確定訴訟記録法の制定に向けて討議を行いました。刑事確定訴訟記録法成立後の1989年からは民事訴訟記録の保存に向けた活動を行い、1992年に最高裁の事件記録等保存規程が判決原本の保存を永久保存から50年の保存へと変更したことを受け、保存期間の経過した民事判決原本を国立公文書館に移管するための活動を重ね、国立公文書館の成立とそれに基づく民事判決原本の同館移管への支援を行いました。現在は、民事事件記録自体の保存のあり方を検討するとともに、刑事確定訴訟記録の保存方法の見直しを討議するなど、継続的に司法資料の保存に取り組んできたところであり、過去の裁判記録が適切に保存され、国民に対して広く公開されるよう、法整備を求めてきました。


このたびの福田首相の上記発言は、国立公文書館機能の強化が、ひいては司法資料の保存体制の確立にもつながることが期待されるものであり、大いに歓迎するところであります。


1999年6月、国立公文書館法の成立によって、司法文書もその保存の対象となりました。民事判決原本については、1943年分までのものを国立公文書館に移管することとなりましたが、民事裁判記録全般に関しては、同時期までの分を含めまだ保存の方法が決まっておりません。刑事裁判記録については、国立公文書館への移管対象となっておらず、刑事確定訴訟記録法に基づいて検察官が保管し、保管期間の過ぎたものは特別に保存するか廃棄するかのいずれかという取扱いになっています。しかし、廃棄されずに保存されたものについて、その件数が公表されているだけであり、記録の公開がなされていないばかりか、事件当事者のプライバシーを理由に事件名すら公表されていない状況です。事件当事者のプライバシーを侵害しない形で事件名及び保存目録等を公開すべきです。


過去の歴史に触れずに将来の民主主義を構築していくことはできません。過去の重要な記録を適切に管理・保存し、正確な情報を国民に伝えていくことによって、国民の意思が形成されていくものです。しかし国立公文書館の機能や規模は、諸外国に比して十分とはいえません。


わが国においても、司法文書に関するアーキビスト(記録保存の専門職)の養成、文書管理に当たる人員の大幅な増員、歴史資料としての文書選別を行うための中間書庫(現用段階を終えた記録の保管施設)の創設を推進し、よりいっそうの国立公文書館の機能拡充が必要です。また、刑事事件記録についても、現在保存の対象とされていない価値ある記録を国立公文書館に移管するとともに、刑事確定訴訟記録法を改正し、保存されている刑事裁判記録の公開体制を調えるべく、司法資料保存に関する諸法規の整備に取り組むことを当連合会は強く要請するものであります。


2007年(平成19年)11月21日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛