被害者の参加制度新設に関する会長声明

本日、被害者参加制度の新設を含む「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が参議院本会議にて可決・成立した。


当連合会は、被害者参加制度が、以下のような深刻な問題点を含み、わが国の刑事訴訟構造を根底からくつがえすものであるとして、その導入に強い危惧の念を表明し、再三にわたり慎重な審議を求めてきただけに、これが聞き入れられず、性急に立法がなされたことは極めて遺憾である。


被害者参加制度は、犯罪被害者等が自ら、被告人や証人に問いただすこと、さらには求刑をも可能とするものである。犯罪被害者等の心情を被告人に伝える手段として、既に認められている意見陳述制度に加えて、さらに、犯罪被害者等による尋問や求刑ができる制度を認めることは、客観的な証拠に基づき真実を明らかにし、被告人に対して適正な量刑を判断するという刑事訴訟の機能を損なうおそれがある。こうした懸念は、一般市民が参加し2009年から施行される裁判員裁判において、より深刻なものとなる。


当連合会は、むしろ犯罪被害者等の検察官に対する質問・意見表明制度及び支援弁護士制度の導入こそが必要であると表明してきた。成立した法律の条文上はもとより、法案審議の過程においても、当連合会が指摘した刑事裁判の本質に関わる問題点は、刑事裁判の現実に照らせば解消されているとは言えない。


当連合会は、3年後の見直し規定をも踏まえ、本制度の運用の中で、犯罪被害者等の痛みを受け止めつつ、被告人に対して憲法上保障された権利が十全に保障される制度の実現に向けて今後も最善の努力を継続していく。併せて、犯罪被害者等が、弁護士による法的援助をはじめとして、刑事訴訟の場面に限らず、被害直後から広く必要かつ適切な支援を受けられるよう、施策の実現に尽力する。


なお、資力の乏しい被害者参加人が弁護士の法的援助を受けられるようにするために必要な施策を講ずるよう努めるとの条項が与党の修正によって附則に入れられたが、これについては、必ずその施策が被害者参加制度施行までに実現するよう求めるとともに、当連合会においてもその実現に対してできる限り協力する所存である 。


2007年(平成19年)6月20日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛