文部科学省が実施する全国学力・学習状況調査についての会長声明

文部科学省は、本年4月24日に、全国の小学校第6学年及び中学校第3学年の児童生徒を対象に全国学力・学習状況調査を実施しようとしているが、学習状況調査には、個人情報保護の観点から、看過しがたい重大な問題がある。


学習状況調査では、出席番号や氏名など児童生徒の個人を特定できる事項を記載させた上で、児童生徒の私生活に関する事項のみならず、児童生徒と保護者との関係や保護者自身の私生活に関する事項についてまで回答を求めている。国がこのような調査を行うことは児童生徒やその保護者のプライバシー権を侵害する疑いが極めて強いといわざるを得ない。


のみならず、同調査は、行政機関個人情報保護法にも違反する。今回の調査の目的は「全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」こと及び「各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図る」こととされているが、いずれも、個人を特定できる事項を記入させることなく達成できる。「行政機関は、・・・利用の目的(以下「利用目的」という。)の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を保有してはならない」(同法3条2項)のであるから、個人を特定できる事項を記入させることは許されないところである。また、個人情報の書面による直接取得の場合は、利用目的をあらかじめ明示して(法4条1項)、本人の同意のもとに提供を受けるのが原則であるが、判断力の不十分な児童生徒の回答をもって、同意があったとみなすことはできない。


さらに、今回の調査は、各地の教育委員会の協力を得て行われるが、調査への協力に当たって、教育委員会は、各地の個人情報保護条例を遵守しなければならない。とりわけ、個人情報の直接取得の原則を定めた条例が相当数あるが、保護者に関わる事柄を児童生徒に回答させるためには、その例外要件の充足(たとえば個人情報保護審議会から例外として許容する旨の答申を得ること)が必要である。


文科省は、平成19年3月29日付事務連絡で、質問項目の一部の削除を検討すること及び例外的に「氏名・個人番号対照方式」を許容することを通知した。しかし、市町村の個人情報保護審議会等から氏名を書かせることに支障がある旨の指摘を受けた場合などに限って同方式を許容するなどしており、極めて限定的であるばかりか、この方式を採用しても、各学校においては、回答した児童生徒を特定可能であることに変わりはない。


日弁連は、学習状況調査の実施にあたっては、質問項目を慎重に見直すとともに、回答した個人が特定されない措置がとられるよう強く求めるものである。


2007年(平成19年)4月18日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛