規制改革・民間開放推進会議第3次答申に関する日弁連コメント

2007年1月16日
日本弁護士連合会


規制改革・民間開放推進会議は、2006年12月25日に「規制改革・民間開放推進に関する第3次答申-さらなる飛躍を目指して-」(以下「答申」という。)を決定し、公表した。同答申中、司法制度及び法曹制度に関わる部分について、当連合会の見解を述べる。


  1. 士業団体の強制入会制度について 答申は、弁護士を含む8士業の資格者団体の強制入会制度について、業務の自由及び利用者の資格者活用に対する障害として作用しうること等を理由に、これを「規制」であるとして、引き続き検討の対象としている。
    しかしながら、弁護士については、法の支配の担い手としての弁護士制度の根幹をなすものとして、弁護士懲戒制度を含む弁護士自治制度が認められている。弁護士会への強制入会制度は、弁護士自治制度の不可欠の前提であって、これを見直すことは、弁護士自治及び弁護士制度、さらには司法制度の根幹に関わることである。答申にはこの重要な視点が欠落している。弁護士については、検討の対象から外すべきである。
    なお、弁護士懲戒制度については、弁護士会の自治を基本としつつも、外部委員が入って審査を行うほか、今般の司法制度改革で新たに設置された綱紀審査会は全て外部委員で構成される等、一層の透明性の確保をはかっている点も考慮されたい。
  2. 法曹人口問題等について 答申は、平成22年ころまでに司法試験合格者年3000人程度とする現在の目標を可能な限り前倒しすることの検討とともに、さらなる法曹人口の増大の検討を提言する。
    法曹人口は、現在急増の過程にあり、その対応のために最大限の努力を払っているところである。安易な前倒しには、新たに生み出される法曹の質の確保に配慮したしっかりした法曹養成を行うという観点から、反対である。
    当連合会としては、法曹人口問題は、常に法曹の質と社会における法的需要を検証しつつ検討すべき問題であると考えている。このような観点を軽視した法曹人口増大を行うことは、法曹制度・司法制度の機能不全を招き、法曹及び司法に対する国民の信頼を失わせ、かえって法の支配浸透のため法曹の質と量を大幅に拡充するという司法制度改革の目標に反する結果となる。2006年12月に自民党司法制度調査会が発表した新たな法曹養成制度に関する提言書も、今後の法曹人口問題は、法曹の質の確保が大前提であり、社会の法的需要を踏まえながら、継続的に検討すべきであるとしている。
    答申は、法曹養成制度、特に新司法試験予備試験についても言及している。
    予備試験制度は、経済的事情等により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得の道を与えようとするものであり、その位置付けは補完的・例外的なものであるべきである。法科大学院制度を中核とする新たな法曹養成制度を着実に健全に育てていくためには、予備試験の試験内容及び運用には、法科大学院制度の理念を損ねることのないよう、格段の配慮が要求される。
  3. 社会保険労務士への簡裁訴訟代理権付与等について 答申は、社会保険労務士への一定の簡裁訴訟代理権付与についても、検討の対象としてとりあげている。
    しかしながら、社会保険労務士については、訴訟や紛争解決の基礎となる法令、倫理及び実務についての職としての知見・素養の担保はなく、限られた範囲であれ訴訟代理権を認めることは相当でない。そもそも、社会保険労務士の代理権については、司法制度改革推進本部等での検討の結果、平成17年改正社会保険労務士法で一定の裁判外紛争解決手続での限定的代理権を付与することで結論をみているものであり、同改正法の施行もなされていないこの段階で次なる権限拡大の検討を論ずること自体適切でない。
    隣接法律専門職の代理権の問題は、司法制度改革審議会において「当面の法的需要」を満たすための措置としての検討が提言され、それを受けて司法制度改革推進本部における検討を経て、各専門職に一定の代理権が付与されたものである。この問題は、法曹人口問題、法曹制度とも密接に関わるとともに、各隣接法律専門職の在り方自体に関わる問題であって、司法制度全体の制度設計の中で検討されるべき問題である。
  4. 規制改革・民間開放推進会議での司法制度に関する検討の在り方について 司法制度については、司法制度改革審議会及びそれに続く司法制度改革推進本部において、法曹のみならずそれ以外の各界から有識者の参加を得て十分な時間をかけてさまざまな角度から議論が行われ、それを踏まえて一連の制度改革がなされた。現在その着実な実行と検証に取り組むとともに、それを踏まえて、司法制度改革の積み残し課題の検討に取り組まなければならない段階にある。
    規制改革・民間開放推進会議の検討課題及び提言の中には、上記の諸問題を含め、司法制度に深く関わる課題が含まれているが、その検討はこれら司法制度改革の成果及び議論の経緯を十分踏まえたものであるべきであって、「規制改革」という視点のみで司法制度を論じかつ政策提言をしていくことについては疑問を呈せざるを得ない。
    同会議は、司法制度のみならずさまざまな分野にわたる制度について検討し政策決定につながる提言をすることを予定されている。そこでの情報収集、議論、意見形成の過程については、意見聴取の対象の選択、審議の回数及び期間、ヒアリングを含めた議事の公開(議事要旨の公開にとどまらない)等について、一層の透明化・適正化がはかられることを要望する。規制改革に関して新たに設置される予定の会議についても同様である。

以上