名張毒ぶどう酒事件に関する再審請求棄却決定について(会長声明)

本日、名古屋高等裁判所刑事第2部は、請求人奥西勝氏に係る名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求の異議審につき、検察官の異議を容れ、2005(平成17)年4月5日に原審(請求審)である名古屋高等裁判所刑事第1部が下した再審開始決定を取消し、本件再審請求を棄却する決定を下した。


本件は、1961(昭和36)年3月に、三重県名張市の奈良県との県境に近い集落で、ぶどう酒に農薬が混入されて十数名が死傷したという事件であり、請求人は一審で無罪とされながら控訴審で逆転死刑となった稀有な事件であって、当連合会は1977(昭和52)年3月の第5次再審請求以来、一貫して支援してきた。


原審において弁護団は、ぶどう酒の開栓実験を重ね、王冠の形状や封緘紙の破断状況に関する鑑定と、農薬の成分に関する鑑定を提出した上、鑑定人尋問を行なった。これら科学的立証によって公民館で発見されたとする王冠の証明力は消滅し、公民館を本件犯行場所と断定した第5次請求の最高裁判所決定の誤りを明らかにした。さらに犯行に使用された農薬は請求人が当時所持していた農薬と異なることを立証した。


その結果、確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じたというべく、先の再審開始決定はこれを正当に評価し、新旧証拠を総合評価して確定判決の誤りを綿密かつ明快に解明したものである。異議審裁判所においては、農薬の成分に関する鑑定人尋問を再度実施し、犯行に使用された農薬が確定判決の認定と異なる疑いは一層深まったのであり、再審開始決定を覆す根拠は全くなかった。


それにも拘らず、この度の決定は、弁護団の提出した新証拠の証拠価値を具体的な根拠なく軽視し、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の無罪推定の基本原則を無視し、請求人側に無罪であることの立証責任を負わせたに等しいものである。また、請求人が過去に自白した経緯等に重きをおき、安易にその信用性を肯定したもので、過去の再審無罪事件の教訓が生かされていないものといわざるをえない。


本件請求人奥西勝氏は当年80歳の高齢であり、その冤罪を晴らすには1日の猶予も許されない。当連合会は奥西勝氏の無実を確信し、再審により無罪を勝ち取る日を目指して本件を引き続き支援する所存であり、弁護団の一層の努力を期待する。


2006年(平成18年)12月26日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛