裁判員休暇制度の導入についての会長談話

報道によると、トヨタ自動車株式会社が、2009年までに実施される裁判員制度に向けて、「裁判員休暇」制度を創設する方針を決めた。裁判員に選任された従業員に対して、その職務を果たすための期間につき、上限を定めることなく有給の休暇を認めることが検討されているようである。


裁判員制度は、司法に国民の健全な社会常識を反映させるに止まらず、わが国の民主主義をより実質化するものとして、歴史的に大きな意義を有する。そして、この制度への国民の実質的・主体的関与を実現するには、国民が審理に参加する上で障害となる事由を解消するため、各種関係法令や物的環境が整備される必要がある。


この点につき、民間企業に勤務する国民のためには、裁判員に選任されたことを契機として不利益を受けることのない職場環境が整備されなければならない。最高裁判所が本年1月から2月にかけて実施したアンケート調査結果においても、特に重要と考えられる環境整備事項として、「会社の経営者や幹部の間に裁判員制度への理解を広めること」や「裁判員の役目を果たすために収入が減った場合に経済的に十分な補償をすること」が挙げられている。国民のこうした声に応えるには、裁判員に選任されたために休暇を取得したことを理由とする解雇や配置転換などがされてはならないことはもちろんのことであるが、さらにより進んで、当該従業員の給与を保障する制度の構築がなされるべきである。当連合会は、裁判員裁判の制度構築の過程で、その旨の立法化の提言などをしていたところであるが、各企業において、就業規則の制定などの形で積極的な実現が図られるのは誠にが望ましいことであるれる。


このように、裁判員制度を実効あるものとするには、法曹三者の努力のみでは足りず、さらに民間企業の経営者の協力を得ることが必要不可欠である。


そうした中で、わが国のリーディングカンパニーの一社が、率先して裁判員に選任された従業員を支援する取り組みを表明したのは、大変喜ばしいことであり、大いに歓迎したい。これに続いて、他の各企業においても、裁判員制度の意義を踏まえた職場環境整備が進められることを希望する。


同時に、国、各地方公共団体に対しても、裁判員に選任された国民が、参加しやすい制度とするために、各種環境の整備を進めるよう求めるものである。


当連合会としても、裁判員制度が幅広い国民によって担われるよう、引き続き必要な環境整備に尽力していく所存である。


2006年(平成18年)8月11日


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛