中国残留婦人東京地裁判決についての会長談話

本日、東京地方裁判所は、中国残留婦人による国家賠償請求訴訟において、原告らの請求を棄却する判決を言い渡した。


本件は、2002年12月以降、全国の15の地方裁判所で約2100人の中国残留邦人が提起した国家賠償請求訴訟に先立ち、2001年12月、東京地方裁判所に提訴されていたものであり、中国残留婦人による国家賠償請求訴訟としては初めての判決である。


中国残留婦人を含む中国残留邦人の問題について、当連合会は、2004年3月、人権救済申立事件における調査をふまえ、国に対し、帰国促進策等の徹底、生活保護法によらない生活保障給付金の支給、特別の年金制度の策定、日本語教育のための制度の充実その他の生活支援策を検討・実施すべきであることを勧告していた。また、2005年7月には、中国残留孤児による国家賠償請求を棄却した大阪地裁判決を契機として、政府及び国会に対し、中国残留邦人の老後の所得保障など支援施策の抜本的な見直しや立法措置を行うなどの施策を早急に実現するよう求めていた。


本判決は、外地の危険地帯への国策移民と危機発生時の国民保護策立案の懈怠という先行行為を理由としてその早期帰国を実現すべき政治的責務の懈怠があったとしながら、原告らとの関係で看過できないほどの著しい政治的責務の懈怠がないとして、国家賠償法上は違法でないとした。また、中国残留邦人に対する自立支援施策がはなはだ不十分であったと指摘しながらも、国家賠償法上違法と評価されるまでの立法不作為や行政府の責務の懈怠はないと判示した。


しかし、中国残留婦人が本邦で置かれている実態は、本判決も指摘するとおり、「日本語教育の貧困は目をおおうばかりであり」、また、「国民一般の収入水準を下回る生活保護水準の生活を余儀なくされる者が多い」状況にある。にもかかわらず、中国残留婦人に対する帰国後の諸施策は、本邦への帰還の途を閉ざされ、長年にわたり中国に放置されてきたというその過酷な境遇に照らしても、未だ個人の尊厳を確保するに足りるものとはなっていない。


当連合会は、中国残留邦人の高齢化が進んでいる現状に鑑み、国会及び政府に対し、中国残留邦人の生活を保障する立法を含む諸措置を速やかに講じるようあらためて求めるものである。


2006年(平成18年)2月15日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛