会長談話(大崎事件再審請求審特別抗告棄却決定にあたって)

最高裁第三小法廷は、本年1月30日付で、原口アヤ子氏の再審請求について、鹿児島地裁の再審開始決定を取り消した福岡高裁宮崎支部決定を是認し、特別抗告を棄却した。


本件は、1979(昭和54)年に鹿児島県大崎町で牛小屋から遺体が発見された、いわゆる大崎事件である。原口氏外2名が殺人・死体遺棄容疑で、更に1名が死体遺棄容疑で逮捕された。原口氏は一貫して無罪を主張したが、懲役10年の有罪判決が確定し、服役した。しかし、原口氏は出所後に再審を請求し、2002(平成14)年3月、鹿児島地裁は再審開始を決定した。


最高裁白鳥決定は、再審における新証拠の明白性判断について、「もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべき」であると判示して、その判断基準については、「『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則が適用されるものと解すべきである」とした。そして、最高裁財田川決定によってその具体的判断方法が示された。これら最高裁白鳥・財田川決定によって無辜の救済の扉が大きく開かれたのである。


鹿児島地裁の開始決定は、上記最高裁白鳥・財田川決定に沿う、妥当なものであった。


ところが、開始決定を取り消した福岡高裁宮崎支部決定に対して、本最高裁決定は、「申立人提出に係る新証拠の明白性を否定して本件再審請求を棄却すべきものとした原判断は、正当として是認することができる。」として、特別抗告を棄却したものである。新証拠を十分に検討しないまま開始決定を取り消した高裁決定に対し、再審請求人側では、死因についての疑問や共犯者の自白の信用性など、いくつもの重要な問題提起をしたにもかかわらず、本最高裁決定はそれらに何ら答えていない。


当連合会は、今後も再審請求審にも「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則が適用されるとした最高裁白鳥決定等が正しく適用されるように十分に注視していくものである。


2006年(平成18年)2月3日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛