虚偽の構造計算書作成問題についての会長声明

国土交通省は、本年11月17日、姉歯建築設計事務所が、虚偽の構造計算書を作成した首都圏のマンションやホテルにつき、建物の建築確認・検査を実施した指定確認検査機関イーホームズ(株)等からの報告を受け、工事中や竣工済みのマンション等の構造耐力が建築基準法の耐震基準を下回り、震度5強程度で倒壊する恐れがあること等を発表した。


当連合会は、1998年3月18日、当時の建設大臣に対し、建築基準法改正による「建築確認・検査の民間開放」によって創設される民間の指定確認検査機関について、「営利を目的とする株式会社が『公正中立』な立場を保持できるとは到底考えられない。また、手抜き工事等の欠陥住宅を生み出す建築業界の実態・体質、業者に依存せざるを得ない建築士の現状等を踏まえれば、民間の検査機関によりどれほどの効果が期待できるかは、甚だ疑問である。」との申し入れを行った。今回発覚した虚偽の構造計算書作成問題は、まさに当連合会の上記指摘が現実化したものであり、誠に遺憾である。これら虚偽の構造計算書の作成に関与した建築士、設計事務所、販売業者、施工業者と、同計算書の虚偽性を見逃した民間の指定確認検査機関、自治体など関係者に責任があることは当然であるが、上記指摘のような問題点があるにもかかわらず、「建築確認・検査の民間開放」を推進し、虚偽の構造計算書を見逃す事態を許した国にも責任の一端があるといわざるを得ない。


当連合会は、本年11月11日に開催した第48回人権擁護大会において、我が国の欠陥住宅被害の現状及び建築生産システムの問題点を指摘したうえで、「安全な住宅に居住する権利」が基本的人権であることを宣言し、建築士制度に関する改革や建築確認・検査制度の改善など欠陥住宅をなくし安全な住宅に居住する権利を確保するための法整備・施策を求める決議を採択した。当連合会は、この決議内容の実現を求め、尽力する所存であるが、今回の虚偽の構造計算書作成問題は、この決議において指摘したばかりの懸念が、不幸にも、たちまち現実のものとなり、当該建物の入居者の安全な住宅に居住する権利が侵害されていること、また、この問題が我が国の住宅の安全性に対する信頼を揺るがすほど重大な影響を及ぼしていることに鑑み、国・自治体及び関係機関に対し、以下のとおり要望する。


  1. 虚偽の構造計算書の作成によって生じた本件欠陥住宅の被害者が、即刻、安全快適で経済的負担のない仮住まいに転居できるよう、被害者の生命・身体の安全を確保するために必要な施策をすみやかに実行すること。
  2. 本件欠陥住宅の被害者が被った甚大な被害について、すみやかにその被害を回復できるような救済措置を講ずること。
  3. 本件被害以外の建物についても、1998年の建築基準法改正によって建築確認・検査の民間開放がなされた後の建物を中心に、その安全性に不安のあるものについては、国または地方自治体の責任において、すみやかに耐震安全性の調査を行うこと。  

2005年(平成17年)12月2日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛


→1998年3月18日 建築基準法改正についての申入書