「週刊新潮」の実名報道に対する会長声明

株式会社新潮社は、10月20日発売された「週刊新潮」において、10月14日、名古屋高裁が元少年の被告人3名に対して死刑判決を言い渡した、いわゆる大阪・愛知・岐阜殺人被告事件に関して、元少年3名の実名を挙げ、2名の顔写真を掲載した。


少年法61条は、少年のとき犯した罪により公訴を提起された者について、氏名、年齢、容ぼう等により本人と推知できるような記事又は写真を報道することを禁止している。憲法第13条は個人の尊重及び幸福追求権をうたっており、子どもは成長発達権の主体として尊重されなければならない。少年の健全育成を期するという少年法の目的(同法第1条)は、このような子どもの成長発達権を保障するという趣旨であり、少年法第61条は、そのために、未だ成熟した判断能力をもたない少年時代に犯した犯罪について、立ち直り、社会復帰を阻害することになる実名報道等を禁止したものである。子どもの権利条約第40条2項は、刑法を犯したとされた子どもに対する手続の全ての段階における子どものプライバシーの尊重を保障し、少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆるペキンルールズ)第8項も、少年のプライバシーの権利は、あらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつきうるいかなる情報も公表してはならないとしている。また、凶悪重大な少年事件の背景には家庭・学校・地域などをめぐる複雑な要因が存在するのであって、少年個人のみの責任に帰する厳罰主義は妥当ではなく、少年法の趣旨に則り少年の健全育成・成長発達が保障されるべきである。少年法第61条は、このような少年法の理念に基づき、事件の重大性等に関わりなく一律に実名報道等を禁止しているのであって、事件の重大性等との比較考量によって、それが許容されると解すべきではない。そして、この理は、少年が成年に達したからといって直ちに適用が除外されるべきではないのである。


同誌は、犯罪事実の態様や被害者の心情等との比較考量により少年法第61条違反の実名報道等も是認されうるとした2000年2月の大阪高裁判決を引用して、今回の報道を正当なものであるとしているが、他方、2000年6月の名古屋高裁判決は、少年法第61条が少年の基本的人権を保護する規定であり、一律に実名報道を禁止しているとしても報道の自由を保障した憲法第21条1項に違反しないとしている。同判決に対する最高裁判決も、大阪高裁判決のような判断を示していないのであり、大阪高裁判決に依拠して今回の報道が是認されるものではあり得ない。当連合会は、これまでも少年法第61条の精神を遵守し、少年及び関係者の人権を侵害することのないよう報道機関に要請してきたところである。今後、同様の実名報道、写真掲載がなされることがないよう、強く要望する。


2005年(平成17年)10月28日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛