自衛隊等のイラク派遣に反対する会長声明

政府は、年内にも、イラク特措法に基づき自衛隊および文民をイラクへ派遣するとして、近日中に「基本計画」を閣議決定する予定である。


イラク特措法は、イラクにおける自衛隊の武力行使を容認するものであり、他国領土における武力行使を禁じた憲法に違反するおそれが極めて大きく、当連合会はその制定に反対した。


しかも今回の派遣は、国連のPKO活動に対する協力としてなされるものではなく、国連の要請もイラクの同意も存しない。自衛隊等の活動は、米英による侵攻の戦後処理としての占領行政に対する協力にほかならない。


現在イラクでは、米兵等に対する攻撃や自爆テロが全土で連日のように発生し、自衛隊の派遣予定地に近いナシリヤでイタリア軍に多数の死傷者がでるなど、その治安はますます悪化している。国連事務所や国際赤十字事務所も攻撃を受けており、国際機関職員や外交官の安全すら確保されていない。米軍も認めるとおり、「イラクは戦争状態にあり、その全土が戦闘地域」である。イラクに安全な「非戦闘地域」などが存在しないことは明らかである。


そのため国連、国際赤十字、スペイン等はその要員をイラクから全面的に撤収しており、アメリカから派兵を要請されていたトルコやインドも派兵を見合わせ、パキスタンも未だ派兵に応じていない。


そうした状況下でイラクに自衛隊等が派遣されるならば、米軍の協力者として格好の攻撃目標となり、自衛隊員等が死傷する事態、自衛隊員が装備する対戦車砲等を用いてイラク国民に対し武力行使をせざるを得ない事態が発生するおそれが大きく、さらに大使館員やNGO関係者など、イラク国内の日本人が広く攻撃の標的となるおそれすら指摘されている。


 「テロに屈してはならない」との掛け声のもとに、若い自衛隊員等の尊い生命が軽視され、犠牲とされること、また自衛隊の武力行使によりイラク国民に犠牲者を出すことは決して許されない。


イラク特措法制定時とは現地の状況が大きく変化しており、「自衛隊等の対応措置は非戦闘地域において実施し、武力による威嚇または武力行使にあたるものであってはならない」との同法の基本原則に従えば、もはやイラクに自衛隊等を派遣することは不可能である。


当連合会は、自衛隊等のイラク派遣に強く反対し、政府に対し「基本計画」を閣議決定しないよう、求めるものである。


2003年(平成15年)11月19日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹