イラク特措法に関する会長声明

本日、与党3党の賛成により、イラク特別措置法案が衆議院を通過した。


イラク特別措置法案は、「戦後はじめて、自衛隊が他国領土で米英軍を主力とする多国籍軍を支援する」ことをその目的とするものである。


わが国は専守防衛を国是とし、今まで自衛隊は相手国の同意の存する国連のPKO活動に協力する場合以外、他国領土に派遣されたことがない。しかし今回の派遣には国連の要請もイラクの同意も存しない。


そもそも米英軍のイラク侵攻は国連憲章に反するものであり、大量破壊兵器の未発見という事態を前にして、米英が主張した正当性さえ大きく揺らいでいる。現在、イラクにはイラク人による統治機構は存在せず、米英軍が侵攻の戦後処理としての占領行政を行っている。また、米軍自身が認めるように、未だイラク全土が戦闘状態にあり、米英軍はフセイン政権支持勢力に対する掃討作戦を継続しており、これに対し同勢力も計画的な武力攻撃を繰り広げている。


自衛隊がそうしたイラクにおいて、戦闘継続中の米英軍のために武器・弾薬・兵員を輸送することは、決して「非戦闘地域での後方支援」などと言うことはできず、米英軍の武力行使と一体化したものと評価されることは明らかである。さらに、自衛隊がイラク国民に対し武力を行使せざるをえない事態や、自衛隊員が攻撃により死傷する事態の発生さえも予想される。


憲法が他国領土での武力行使を禁じていることは言うまでもない。従って、イラクにおける自衛隊の武力行使を容認するイラク特別措置法案は、憲法に違反するおそれが極めて大きいものである。


しかるに、延長国会におけるわずかな審議のみで、国民の意見も大きく分かれているにもかかわらず、与党3党が全野党の反対を押し切ってイラク特別措置法案を採決したことは、到底容認することができない。


当連合会は、採決に抗議し、イラク特別措置法案に反対する。


2003年(平成15年)7月4日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹