個人情報保護関連法案の成立に関する会長声明

本日、行政、民間を広く規制の対象とした個人情報保護関連5法案が成立した。政府の説明によれば今日のIT社会に対応したものだと言い、個人の権利として訂正請求権や利用中止請求権を新たに盛り込んだことなどは、個人の自己情報コントロール権の確保という点から一定の評価ができる。しかし、実際にはコンピュータによる情報処理能力が極限にまで高まろうとしている今日という時代に対応していない。


個人情報保護法では規制の対象となる「個人情報取扱事業者」(2条3項)にほとんどの国民が該当する可能性があり、国民の情報の流通をすべて監視するという仕組みになっている。これでは自由な言論活動や経済活動などが妨げられるおそれがあり、日本社会全体が萎縮していまう危険が大きい。


行政機関個人情報保護法は、行政機関の判断による利用目的の変更(3条3項)、目的外利用・外部提供(8条2項)を広く認めており、「保護」法というより「利用」法になってしまうおそれがある。防衛庁情報公開請求者リスト作成事件や、自衛官募集のための住基台帳情報提供事件などの説明にみる政府の独特の法解釈からすると、個人情報のどのような利用も正当化しかねない。日弁連が提案した、第三者機関による適正なコントロールという制度は採用されなかった。また、裁判管轄が全国の地方裁判所に認められないことで、個人の司法救済を求める権利が著しく制約されており、司法制度改革に逆行するものである。


個人情報保護法、行政機関個人情報保護法がこのような重大な問題を抱えたまま施行されることを考えると、これらの法律の施行令の規定において必要な絞り込みをする必要があるし、さらには継続的に問題点を検討し施行後3年以内に制度の全面見直しを行うべきである。


また、これらの法案の成立は住民基本台帳法附則1条2項の「個人情報の保護に万全を期する」の一内容をなすはずのものであるが、上記のとおり、今回成立した法案は「個人情報の保護に万全を期する」の名に値しないものであるから、政府はこれらの法案の成立をもって住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)から離脱している地方自治体に住基ネットへの参加を強制することはできない。また、市区町村の首長は住民基本台帳事務という自治事務(地方自治法2条8項)の管理運用について住民に対し第一次的責任を負う立場として、住民のためにどのようにすることが「適正な管理」であり、「必要な措置」(住基法36条の2第1項、30条の29第1項)かということを自らの責任において判断し実行すべき立場にあるから、住基ネットに法制度上及び運用上重大な問題がある現状においては、住基ネットへの参加は慎重であるべきである。


2003年(平成15年)5月23日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹