有事法制法案の採択に対する会長声明

本日、衆議院武力攻撃事態対処特別委員会において、与党と民主党の修正合意を踏まえて、有事法制法案が修正のうえ採択された。


当連合会は、これまで政府の提出した法案には、平和主義、基本的人権の尊重、国民主権主義という憲法原理に抵触する重大な問題が存するとして、その廃案を求めてきた。


本日採択された修正案は、欠陥の大きかった政府案と比べれば、基本的人権の保障と国会による民主的統制をより強化したものであり、当連合会が指摘していた問題点にある程度応える内容となっている。


しかし、肝心な「武力攻撃予測事態」の定義や範囲は曖昧なままであり、「予測事態」と周辺事態法でいう「周辺事態」の異同や、武力攻撃事態対処法と周辺事態法がどう連動するのかは依然として不明確である。また、有事認定の客観性も十分に担保されていない。さらに、国会による事前の民主的コントロールも確保されていない。有事における首相の地方公共団体や指定公共機関に対する指示権・代執行権は、当面凍結されたものの何ら変更がなく、有事において民主的な統治機構や地方自治を維持することができるのかという疑問は払拭されていない。民放を含むメディアが有事に政府の統制下に置かれる危険性も完全には排除されていない。


したがって、修正案にはなお憲法上多くの重大な問題点が存在し、当連合会が指摘してきた基本的人権を侵害する危険性は解消されていない。


しかも、今回の修正は国民的な議論を尽くしたものとは言いがたく、特別委員会における国民に開かれた議論や審議すら行われていない。


言うまでもなく、有事法制法案は、わが国の進路を決定し、国民の生命と安全そして基本的人権に大きく関わる重要法案である。


当連合会は、このような憲法原理にかかわる重要法案について、十分な国民的議論も国会審議もないままに、なお多くの問題点が存する修正案が、与党と民主党の合意ができたということによって、そのまま直ちに可決され成立することには反対せざるをえない。


当連合会は、今後の衆議院本会議および参議院において徹底的な審議を行ない、「有事」の定義や認定手続きを含む修正案の基本構造上の問題点を明らかにしたうえで、修正案を一度国民的議論に供し、議論を尽くして出し直すことを、強く求めるものである。


2003年(平成15年)5月14日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹