リクルート事件判決に関する会長声明

1. 本日、元リクルート会長の江副浩正被告に対する判決が言い渡された。本事件は、1989年12月の初公判より審理期間13年余を要し、公判回数も判決言い渡しを含めると322回にのぼる。公判審理の多くは、江副被告の検事調書の任意性、信用性及び関連証人の捜査段階における供述調書の特信性の立証に費やされたものであり、それが審理の長期化をもたらした一因となっている。


2. これまで長期化した多くの事件は、本件のように、捜査段階における、被告人の自白調書の任意性、信用性、及び関連証人の供述調書の特信性の審理に期日を費やしたことが原因であった。


このように、捜査段階における供述の任意性・信用性をめぐる審理に時間がかかるのは、現行の刑事訴訟法が伝聞証拠の排除を徹底せず、321条1項2号後段で、一定の場合に第三者の供述調書について証拠能力を認め、他方322条1項で原則として自白調書に証拠能力を認めているため、捜査機関が自白等の獲得に力を入れるところ、それが密室でなされているので、後日、取調べ状況を客観的に検証できず、捜査官と供述者の尋問が延々と続くからである。


したがって、この問題を克服するためには、根本的には、伝聞証拠の排除を徹底するべく、同法321条1項2号後段と322条1項を改正し、調書の証拠能力を厳しく制限する必要があり、また、取調べの全過程を録画または録音するなどして可視化し、客観的に検証できるようにすることが必要である。


3. 政府が今通常国会に提出を予定している「裁判迅速化に関する法律案」に対して、当連合会は、裁判の迅速化は裁判の適正・充実と一体のものとして行われるべきで、そのためには、刑事裁判における手続を抜本的に改革する必要があり、その重要な一環として、取調べの全過程の可視化が位置づけられるべきであると主張してきたのはかかる理由からである。


4.また、政府が計画している国民の参加による裁判制度(裁判員制度)のもとでは、国民に分かる裁判の実施が不可欠であり、充実・迅速な集中審理が求められている。そのためには、取調べの全過程の可視化が実現されなければ、審理に参加する国民の理解は到底得られないであろう。


5.当連合会は、以上の理由により、政府に対して、司法制度改革の重要な項目の一つとして、調書の証拠能力を厳しく制限するとともに、取調べの全過程の可視化のために、刑事手続の抜本的改革に取り組むことを求めるものである。


2003年(平成15年)3月4日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹