名張事件会長談話

最高裁判所第一小法廷は、本日、名張毒ぶどう酒第6次再審請求事件の特別抗告を棄却する決定を下した。


本件は1961年(昭和36年)3月、三重県と奈良県との県境の寒村で発生した農薬中毒死傷事件で、公民館で開催された懇親会で、農薬(テップ剤)が混入したぶどう酒を飲んだ女性5名が死亡し、12名が入院加療した事件であり、犯人とされた請求人奥西勝氏は1964年12月、第一審津地方裁判所で無罪となりながら、1969年9月、第二審名古屋高等裁判所で逆転死刑となった異例の事件である。請求人奥西氏は第一審公判開始以来今日まで一貫して否認し、無実を叫び続けており、日本弁護士連合会は1977年5月の第5次再審請求の準備段階から本件を支援し続け、四半世紀を越えようとしている。


本件第5次請求では、請求審決定が本件唯一の物的証拠である酒瓶の王冠に残された傷痕について、その証明力が大幅に減殺されたことを認めながら、自白を偏重して請求を棄却し、特別抗告審である最高裁判所は第一審以来、争点とならなかった状況証拠を根拠に犯行場所を断定して抗告を棄却した。第6次請求は、この最高裁決定の誤りを証明し、かつ証拠物の形状から請求人の自白の虚偽性を暴くため、王冠の開栓実験はじめ証拠物の科学的立証に努めてきた。しかし1998年10月、名古屋高等裁判所刑事第1部は弁護団が立証準備中に、これを無視して請求を棄却し、1999年9月、異議審である同裁判所刑事第2部も弁護団の鑑定作業の進行を知りながら、その途を封じ、このたび最高裁もまた弁護団の立証が大詰めを迎えた段階で、立証の途を閉ざしたものといわざるを得ない。


死刑の廃止は世界的潮流となっており、死刑囚の無実の叫びを急いで封じる必要は全くない。しかも今回の最高裁決定は、新証拠である中西ノートの証拠価値を他の証拠と孤立的に評価し、最高裁白鳥、財田川決定が示した新旧証拠の総合的判断を怠ったものと思われ、無辜の救済を目的とする再審制度の本旨に反するといわざるを得ない。本件請求人は既に76才であり、1日も早く冤罪をはらさねばならない。


当連合会は、本件に対する支援を、今後、一層強化することを表明すると共に、本件の再審開始へ向けて各界各層のご協力を期待するものである。


2002年(平成14年)4月10日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹