個人情報保護法案に反対し、住民基本台帳ネットワークシステム施行の延期を求める日弁連会長声明

去る5月17日、衆議院内閣委員会において、個人情報の保護に関する法律案の審議が開始された。


日弁連は、同法案に対し、昨年5月9日の意見書において、抜本的修正がされない限り反対する旨表明した。その理由は、公的部門の個人情報保護法制の整備を優先すべきこと、同法案は基本原則を示すにとどまらず、弁護士、弁護士会も含む民間事業者一般に対し具体的義務を課した上、個人情報保護のための独立した機関をおかずに主務大臣が助言、勧告、命令等の権限を持ち、命令違反には罰則を設けていることから事業者に対する広範な介入を招くおそれがあることなどである。


この法案に対してはマスコミ等から強く指摘されているようにメディアの活動を不当に規制するものであることが明らかになっている。


加えて、今年3月に国会に提案された行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案は、公的部門の個人情報の取扱について住民票コードによる名寄せを容認し、実質的な規制を放棄したに等しいものである。


もとより高度情報化社会が進展する中で、個人情報保護法制は必要であるが、両法案に上記のような重大な問題がある以上、若干の修正ではおよそ解決にはならないので、反対せざるを得ない。高度情報化社会における実効的な個人情報保護を真に実現する法制のあり方について改めて検討すべきである。


1999年8月に住民基本台帳法改正により住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の導入が決まった際、住基ネットが国民すべてに番号を付し、しかも全国的なコンピュータネットワークによって流通させる、プライバシー侵害の危険性が高いものであることから、同改正法施行に先立って個人情報保護法制を整備する必要があるために両法案が策定されたものである。したがって両法案が成立しない以上、住基ネットを施行すべきではない。


また、多くの市区町村が住基ネットの導入に消極的であり、プライバシー保護と技術的な準備の両面について大きな不安を持っており、このまま実施することは収拾のつかない混乱をもたらすおそれがあることからしても、本年8月に予定されている住基ネットの実施は延期すべきである。


2002年(平成14年)5月24日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹