「エネルギー政策基本法案」に関する会長声明

与党3党は、昨年の臨時国会にエネルギー政策基本法案を議員提案立法として提出し、今年の通常国会での審議可決を求めている。


当連合会は、これまで、プルトニウムをエネルギー源とする政策の放棄、原子力発電に対する財政援助の停止、エネルギーの消費削減と再生可能エネルギー拡大のための公的な支援策の強化、原発の段階的な廃止等を求める決議をしてきた。とりわけエネルギー政策の立案過程の民主化と透明化をはかり、少なくとも基本計画を国会の議決事項とすること等を内容とする「エネルギー政策基本法」を制定すべきことを提案してきた。


まず、この法案の策定過程を見ると、市民生活と経済政策の基本をなすエネルギー政策を決めていくための法律案であるのに、その討議過程も非公開で、国民的な議論が完全に欠如している。このような重要な問題に関する法案については十分な市民の討論の時間を確保するために事前に国民の前に原案を示して、エネルギーや環境問題に関わる地方自治体の意見、NGOや専門家の意見を聴くべきである。政府提案では保障されているこのような手続が議員提案であるというような形式的な理由で省略されてはならない。


また、当連合会の上記の基本的見解からすれば、エネルギー政策基本法案の内容には、以下のように多くの問題点がある。


第1に、11条でエネルギー政策の国会への報告制度がおり込まれただけで、「エネルギー基本計画」の決定は経済産業大臣が関係行政機関の意見を聞いて閣議決定することとされており、国会での議決など民主的な決定手続は盛り込まれていない。


第2に、法案6条は地方公共団体は「国の基本方針にのっとって、国の施策に準じて施策を講ずること」が責務とされている。この法律のもとで、現在のような原子力に偏したエネルギー政策が決定されることになった場合は、三重県の芦浜原発撤回、福島県知事のMOX利用計画の凍結とエネルギー政策の検討、新潟県刈羽村・巻町・三重県海山町の住民投票など最近の動きに見られる地方自治体の自主的なエネルギー政策の選択を不可能にしてしまう危険がある。


第3に、法案は2条2項においては、電力など貯蔵できないエネルギーについては特に供給の安定性を強調し、4条2項では、自由化もこれを害しない範囲で進めることとされている。しかし、供給の安定性を過度に強調することは、今後更なる拡大が臨まれる電力市場の自由化と自然エネルギーの推進を阻害することとなる。


このように、このエネルギー政策基本法案については、その制定の手続と内容の双方に大きな問題があり、結果として、自然エネルギーの導入や電力市場自由化の流れにブレーキを掛け、原発に偏重した現状のエネルギー政策を固定化するものと言わざるを得ない。


当連合会はこの法案の提案に反対し、広い国民的な討論に基づき、当連合会がかねてより提唱してきた(1)エネルギー政策の国会による議決などの民主的決定と地方自治体の意向の尊重、(2)化石燃料と原子力エネルギーに依存しない持続可能なエネルギーシステムの確立、(3)エネルギーの消費削減と効率的利用及び自然エネルギー普及促進のための方策の確立などの理念に立脚した真のエネルギー政策基本法が制定されることを求めるものである。


2002年(平成14年)3月5日


日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡