インド洋への「イージス艦」派遣に反対する声明

  1. 政府は12月4日、「テロ対策特別措置法」(以下「テロ特措法」という)の基本計画にもとづいて、昨年11月以降インド洋に派遣していた海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「ひえい」(基準排水量5050t)に代えて、イージス・システム搭載護衛艦「きりしま」(基準排水量7250t)の派遣を決定し、本日午前8時55分、「きりしま」はインド洋に向けて出港した。
    同艦は、レーダ覆域数百キロメートル以上、200の標的同時探知能力、10標的以上同時攻撃能力、最大射程100キロメートル以上の艦隊防空能力を有するイージス・システム搭載鑑であり、護衛艦隊旗艦として、本格的な指揮管制能力を有している。イージス護衛艦は主に空母機動部隊の防空に使われている。
  2. 「テロ特措法」は、「国際的なテロリズムの防止および根絶のため…寄与すること」を目的とするものである。
    しかし、アフガニスタンにおけるアルカイダ等のテロ勢力はほぼ壊滅状態にあると伝えられており、現在自衛隊の艦隊がインド洋で行っている活動が、同 法の目的に沿った真に必要なものであるのかどうかは全く国民に明らかにされ ていない。まして強大な防空システム能力を有するイージス艦の派遣には、同法の目的の範囲を超えるのではないかとの疑いを禁じえない。
    政府はイージス艦派遣の必要性を国民に充分に説明する必要がある。しかる に与党内にさえ反対意見が存するにもかかわらず、国会における議論すら行うことなく、内閣による「基本計画の変更」のみでかかる重大な決定がなされたことには、国民主権の観点からも問題である。
  3. 「テロ特措法」は、「対処措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使にあたるものであってはならない」ことを基本原則としている。
    しかし、海上自衛隊と米海軍との間には情報を共有するデータリンクのシステムがあり、イージス艦の取得した情報は瞬時に米艦隊に送信される。もし米艦隊がイラクへの全面的な空爆を開始した場合には、日本のイージス艦は当然に米国の戦争体制に組み込まれ、米軍の武力行使と一体化した作戦行動に参加することになるであろう。これは武力行使を禁ずる同法の基本原則に反するものである。
  4. 日本国憲法9条は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は認めない。」と規定している。
    当連合会は昨年10月12日、「テロ特措法案」について、憲法9条の規定する武力行使の禁止に抵触するおそれがあることを指摘し、なし崩し的な解釈改憲の弊をおかすことのないよう求めた(同日付会長声明)。
    ところが、この度のイージス艦派遣は、「テロ特措法」を根拠としながらも、その実質は同法を逸脱している疑いがある。
    当連合会は、同艦の派遣に強く反対するものである。

2002年(平成14年)12月16日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹