「自然再生推進法案」の継続審議を求める会長声明

現在、与党提案による「自然再生推進法案」が国会に上程されようとしている。


この法案は、過去に損なわれた自然環境を取り戻すことを目的として、地域の多様な主体が参加して、河川、干潟、里山、森林等の自然環境を保全し、再生し、若しくは創出し、またはその状態を維持管理することを「自然再生」と定義し(2条1項)、自然再生についての基本理念、実施者等の責務、自然再生基本方針の策定等を定めることにより、自然再生に関する施策を総合的に推進しようとするものである。


当連合会は、この法案が自然再生の取り組みを取り上げたこと自体は評価するものである。しかしながら、この法案については、パブリック・コメントのような広く国民の意見を求める手続がなされておらず、これまで自然再生運動にかかわってきた市民団体の意見も十分に取り上げられていない。提案者である与党は、今国会での成立を目指して審議を急ぐと伝えられているが、未だ論議が十分に行われていない状況下で、自然再生のあり方を決める重要な問題を拙速に決めるべきではない。


しかも、その法案をみれば、再生に先立つ緊急の課題である現在残されている自然を保全する原則が明記されておらず、取り戻すべき自然環境についても生物の多様性の確保についての明文の規定がないなどの不十分さがある。また、自然再生を国および地方自治体に真に義務づけるものになっていないし、実施主体となる自然再生協議会の組織化にあたって、地域住民や環境NPO等が関わる手続的な保障が見あたらない。


この法案は、現在残されている自然と再生されるべき自然との生態学的関連性についての視点が明確でないことから、自然再生に名を借りて、残された重要な自然を破壊する公共事業を合理化するおそれすらある。さらに、国や地方自治体が主体となる再生事業に関与する環境NPO等の選択に関して、その公平性を担保する制度がないため、恣意的な選別を可能にし、これまで地道に活動してきた草の根の環境NPO等を排除し、その活動をさまたげるおそれもはらんでいる。


これらの問題点は、法案の多少の手直しで是正されるものとは考えられない。環境NPO等の意見を聞き、広く国民的な議論を経て、抜本的に見直すべきである。そのためには、ひとまず本法案の上程を見合わせ、もし上程するとしても継続審議とし、抜本的な修正を加えて出し直すべきである。


2002年7月18日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹