司法制度改革審議会の最終意見の公表にあたって(会長声明)

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本日、司法制度改革審議会が、約2年間にわたる調査審議の結果を踏まえて、最終意見を取りまとめ発表されました。


審議会が60回を超える会議に加え、全国4箇所での公聴会、民事訴訟の利用者に対する面接調査、諸外国の実情視察などを精力的に行い、充実した審議を進められ、司法制度全般に対する抜本的な改革に向けた報告をまとめられたことに対し、心から敬意を表するものです。 

当連合会は、1990年(平成2年)の第1次司法改革宣言以来今日まで、憲法と世界人権宣言の基本理念に立って、個人の尊厳と人権を確立するため、これまでの「官僚的で小さな司法」を見直し、「市民の司法」すなわち「市民が参加する大きな司法」を確立することを目指して司法改革運動を展開してきました。具体的には、司法予算の増大による裁判所・検察庁の人的・物的基盤の拡充、法曹人口の増加、法曹一元・陪審制の実現、ならびに新しい法曹養成システムの構築などを目指してさまざまな活動を続けてきました。このような観点から今回の最終意見を見ますと、基本的な改革の理念と方向において、一昨年末の「論点整理」および昨年11月の「中間報告」で示された考え方をひきつぎ、憲法の理念を今日の社会情勢の中に生かし、国民のための抜本的な司法改革を目指す強い決意が示されており、共感を覚えます。その上で改革の柱として「制度的基盤の整備」「人的基盤の拡充」「国民的基盤の確立」の3点を示された上、以下の点を提言されたことは、当連合会の目指したものが積極的に取り入れられたものとして評価いたします。


第1に、人的基盤の拡充について、法曹の量と質の拡充を目指して、法曹人口の拡大、裁判所・検察庁の人的体制の充実、ならびに新しい時代にふさわしい法曹の質を確保するための法科大学院構想を提案されたことは、社会の隅々まで法の支配を確立していくことに積極的に取り組むことを企図されたものとして大きな意義があります。


第2に、国民の司法参加につき、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、刑事重大事件につき、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与する新たな制度として「裁判員」の制度を提言されたことは、わが国司法の市民的基盤を確立する上で画期的な意義を有するものです。


第3に、当連合会が強く訴えてきた法曹一元に基づく裁判官制度の改革については、その理念に基づき、弁護士任官の推進、判事補の相当長期の多様な法律専門家としての他職経験、特例判事補制度の計画的・段階的解消、裁判官選考について国民も参加する推薦機関の設置、人事制度の非官僚化などを打ち出されたことは重要な意義をもつものです。


第4に、刑事被疑者に対する公的費用による弁護制度の創設は、刑事被疑者が弁護人の援助を受ける権利を実効的に保障するものであり、民事法律扶助の拡大は、当連合会がかねて目指してきた司法へのアクセス障害を除去する上で大きな前進であります。


なお、弁護士報酬の敗訴者負担の問題は、中間報告後に、各方面から寄せられた多数の意見を取り入れ、一律導入を見直されましたが、今後の立法過程において市民の訴訟制度の利用を萎縮させることのないよう、さらに慎重な検討を期待いたします。また、裁判の改善について、審理期間の半減を目指して「迅速化」の方向が打ち出されていますが、その前提となる証拠収集・証拠開示の充実策など裁判の「適正化」に対する提案は不十分であります。これらにつき、今後の具体的立法化の過程において十分な対策を講じる必要があります。


今回の最終意見は、弁護士および弁護士会の改革についてさまざまな提言をされています。当連合会は、従前から国民の期待を受けて自ら主体的に改革に取り組んできたところでありますが、今回の提言を真摯に受けとめ今後もその努力を続けてまいる所存です。とくに当連合会は、現代社会における弁護士自治のあり方について、本年5月の定期総会において、市民の理解と支持のもとにこれを維持・発展させていくことを決議いたしております。


最後に、当連合会は、21世紀における司法制度の担い手としての重責を十分に自覚し、昨年11月1日に行った、21世紀の司法改革に向けた基本方針を宣言する臨時総会決議(法曹一元・陪審制、法曹人口、法科大学院構想について)を踏まえ、真に国民のために役立つ司法制度、弁護士制度の確立を目指して、国民各界各層の皆様と手を携えながら、司法改革の進展することを願い、ひきつづき全力を尽くすことを誓うものであります。 


政府、国会、司法の各関係者におかれましても、より一層の努力をされることを望み、本日の声明といたします。


2001年(平成13年)6月12日


日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡