人権救済制度の在り方についての答申について(会長声明)

  1. 人権擁護推進審議会は、本日「人権救済制度の在り方についての答申」を発表した。
    当連合会は、同審議会が先に公表した「中間とりまとめ」について、「人権機関」は、(1)政府からの独立性が生命線であり、独立性の確保には様々な制度的保障が必要であること、(2)人権を侵害された人が気安く利用でき、速やかに救済されるものであること、(3)個別救済、立法・政策提言、人権教育を基本的機能とすべきであることなどを提言し、今回の答申に反映されることを強く求めてきた。
  2. しかし、今回の答申は上記基本的要件を満たす制度を提言するものとなってはおらず、単に現行制度である法務省人権擁護局を仮称「人権委員会」に変更して改組・存続させるに留まるのではないかとの疑問を持たざるを得ない。
    1. 答申では、人権機関を独立性のある委員会組織とすべきとし、独立行政委員会と位置づけてはいるが、委員の選任方法、その職務権限と身分保障、所管機関など、政府からの独立性についての制度的保障の在り方については具体的に触れておらず、かえって、その事務局は「法務省人権擁護局の改組も視野に入れて」として、法務省の組織と影響力を温存することを容認しており、仮称「人権委員会」が果たして政府から真の独立性をもつものになり得るか重大な疑問を抱かざるを得ない。公権力による人権侵害を取り扱う機関は、特定の省庁から切り離し、内閣府などその独立性を確保できる省庁の所管とすべきである。
    2. 人権侵害事件の救済には、全国各地に配置された委員が調査に当たり、自ら被害者の痛みを聴き、迅速に判断することが不可欠である。 ところが答申は、委員の人数については触れるところがなく、委員は原則として自ら直接調査を行わず、旧法務省職員が大部分を占める事務局による調査の結果を書面によって判断することを想定している。 これでは人権機関創設の目的であり使命とする、「被害者の視点から簡易・迅速・柔軟な救済を行うのに適した制度」とは到底言えない。
    3. 救済の対象に関しても、人権機関による救済が強く求められている公権力による人権侵害について、原則として差別、虐待に限定して扱うものとし、「人権擁護上看過しえないものについてのみ、個別的に事案に応じた救済を図っていく」としている。 しかし、行政不服審査や内部監査・監察、苦情処理のシステムが設けられてはいても、これによって充分な人権救済が図られているとは言い難いのが現状であり、入管や拘置所等の拘禁施設における非人間的取扱い、ホームレスの人々に対する生活保護の不適用、外国人に対する予防接種のインフォームド・コンセントの不備など、形態の如何を問わず、いやしくも公権力による人権侵害の疑いがある以上は、調査を開始し、広く積極的救済の対象とすべきである。
  3. 以上のとおり、今回の答申にはあるべき人権機関の構想とはほど遠い姿しか示されていない。 法務大臣は、この答申をそのまま受け入れて立法化作業を行うべきではなく、再度市民や人権救済にかかわるNGOの意見を広く聴き、抜本的な見直しを行うべきである。

当連合会は、今後とも、パリ原則に則った、政府から真に独立した人権機関の設置を実現するために、あらゆる努力を尽くす所存である。


2001年(平成13年)5月25日


日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡