勾留取消特別抗告棄却に関する会長声明

最高裁判所第一小法廷は、平成12年6月27日、勾留の取り消しを求めた特別抗告を棄却した。棄却の判断は、5人の裁判官のうち2人が反対するというものである。


この最高裁決定は、東京地方裁判所が、平成12年4月1日、いわゆる電力会社女子社員殺害事件について、無罪判決を言い渡したのに対し、東京高等裁判所第4刑事部が、同裁判所第5特別部が同年4月20日に職権を発動しない旨の決定をなしていたにもかかわらず、検察官の申出により、同年5月8日職権により勾留する決定を発するという異例の経過をたどった末に出されたものである。


刑事訴訟法345条は、無罪判決が宣告された場合には勾留状が失効し、被告人は無罪判決が確定する前であっても直ちに釈放されるものと規定している。


その趣旨は、原審裁判所が慎重に審理をつくした結果無罪の結論に至ったことを尊重し、刑事訴訟法60条の「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」という要件が消滅したものとするものである。にもかかわらず、無罪判決を受けた被告人を新たな証拠調べもせずに再度勾留することは、勾留制度の解釈・運用に反し、刑事訴訟法の原理に悖るものであるほか、第一審判決の判断を軽視するものである。また、被告人が外国人であるために、入国管理局によって強制送還される可能性があっても、勾留の前提要件である「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」がない以上、そのことによって別異の取扱いをすることは許されないものである。


2人の裁判官の反対意見はこれと同旨である。


当連合会はこれまで、刑事司法の改革に力を注ぎ、逮捕・勾留・保釈に関して令状主義が充分機能し制度の適正な運用が図られるべきこと、さらには我が国に滞在している外国人の人権保障に遺漏のないよう強く求めてきたところである。本件のように無罪判決を得た被告人の場合、無罪推定の原理の適用には一段と高度なものが要求されるのは当然で、これに反する本決定は著しく適正を欠き、単に当該被告人にかかる個別事件にとどまらず、刑事訴訟法の根幹を揺るがすものである。


当連合会としては、今後も勾留制度の運用が、憲法、国際人権法及び刑事訴訟法の基本原則に忠実に行われ、被告人や外国人の人権が侵害されることのないように強く要望するものである。


2000年(平成12年)6月29日


日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡