「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律案」成立に関する会長談話

政府与党による議員立法として提案されていた「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律案」が11月29日に成立した。この法律は人権尊重の緊急性に関する認識の高まりと不当な差別の発生等の人権侵害の現状その他の人権の擁護に関する内外の情勢に鑑み、国と地方公共団体、国民の責務を明らかにし、基本計画の策定と政府による国会への年次報告、国による地方公共団体への人権擁護に関する事業の委託などの方法による財政措置などを定めたものである。


ところで、人種差別撤廃条約(7条)や、拷問等禁止条約(10条)、女子差別撤廃条約(10条)は、人権保障と差別防止のための教育を締約国の法的義務として規定し、わが国もこれらの条約を批准しているので、この教育を実施する法的義務がある。また、国連は1994年のウィーン人権宣言を受けて、1995年から2004年を「人権教育のための国連10年」と定め、加盟各国に人権教育の推進を求めてきた。とりわけ、1998年11月の規約人権委員会の日本政府報告書審査に基づく最終見解では、9項・10項で国内人権救済機関の設立を求め、32項においては特定業務従事者に対する人権教育の必要性が指摘され、33項では人権擁護のためにNGOと連携することが求められた。当連合会も同年12月にシンポジウム「人権の文化で世界を満たそう」を開催し、2000年10月の第43回人権擁護大会において、人権救済、立法提言及び人権教育の三つの機能を有する政府から独立した人権機関の設置を求める宣言を採択するなど、人権教育の実現を求めてきた。当連合会は、独立性を備えた国内人権機関が人権救済と人権教育の双方を担当することが望ましいと考える。


今回成立した法律は、上記条約上の国の法的義務に直接触れることがなく、また所管の独立性、特定業務従事者に対する人権教育やNGOの関与などが明記されていないこと、財政上の措置が義務的になっていないことなどは不十分であるが、国と地方公共団体の人権教育に関する基本的な枠組みが成立したことは基本的人権の擁護を責務とする弁護士会としてまことに喜ばしいことである。今後はこの法律を出発点として、これを内容的にも制度的にも発展させる形で人権教育を推進していくことが望まれる。当連合会は人権擁護大会において採択した宣言において表明したとおり、会内の人権教育の取組みを強化し、研修や法曹養成のための教育の中で弁護士や司法修習生に対する人権教育をこれまで以上に重視して実施するとともに、国や地方公共団体の行う特定業務従事者に対するものを含む人権教育に講師・指導員を派遣するなどの協力を惜しまない決意を表明する。


2000年(平成12年)12月14日


日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡