女子差別撤廃条約の選択議定書の採択を求める会長声明

われわれ日本弁護士連合会(日弁連)は、本年における国連女性の地位委員会第43会期における女子差別撤廃条約の選択議定書の採択を強く望むものである。


当連合会は、第4回世界女性会議に向けて作成した報告書において、女子差別撤廃条約についても選択議定書の採択によって個人通報制度を設け、条約実施の国際的保障を強化する必要性があると指摘し、1995年11月国連事務総長宛に会長名で、前記報告書の内容を紹介する手紙を送付した。1997年6月には、「女子差別撤廃条約選択議定書の採択を支持する日弁連会長声明」を発表し、選択議定書草案を検討して、1998年2月には草案の条項について「女子差別撤廃条約の選択議定書の採択を求める意見書」を出した。


国連女性の地位委員会は、第4回世界女性会議から5年目の2000年に女子差別撤廃条約の選択議定書を発効させることを目指しているので、本年の女性の地位委員会第43会期は、この会期において、選択議定書草案を採択しなければならないという極めて重要な会期となっている。


草案の各条項について、当連合会は、意見を述べてきたところであるが、さらに第42会期の改定草案および作業部会における審議をふまえて、留保規定を設けることなく、次の各点を含む選択議定書の採択を強く望むものである。


1. 申し立てることができる者は、個人または集団に加えて、個人または集団のため(on behalf of)の申立も認めること。

世界の多くの女性たちが貧困や非識字のゆえに申し立てる手段を持たず、さらに、女性に対する差別や女性に対する暴力が社会構造となっているため、申立をしたことに対する報復や不利益取扱をおそれて申立をすることができない状況にある。


従って、申し立てることができる者の範囲を拡大することは、申立制度を実効あるものとするために欠くことができない。1994年の自由権規約委員会手続規則第90条b項は、「本人が申立をすることができないと思われるような場合には、当該被害者のため(on behalf of)の申立を受け付ける」としているところでもある。


2. 申立の対象は、条約に定める権利の侵害のみならず、締約国の義務違反も含めること。

女子差別撤廃条約には、差別を撤廃するためすべての適当な措置をとる義務を定めている規定が多く存在し、私人間および私的分野も含めた差別撤廃義務を締約国に課しているのが他の条約と比較しても特徴となっている。


さらに、私人による女性に対する暴力の被害(例えば、夫による暴力)などについては、権利の侵害は私人によってもたらされるが、国家はこれを防止するなどの適当な措置をとる義務を負うものもある。


従って、条約に定める差別撤廃義務の違反をも通報の対象とすべきである。


3. 調査手続を含めること。

委員会の、個別の申立なしに、権利の重大で系統的な違反または義務違反に対する職権での調査手続(訪問を含む)は、武力紛争下における女性に対する暴力や、各国にまたがる人身売買、売春の強制などに有効であり、このような場合には、被害者個人の申立を待つことは困難である。従って、調査手続を欠くことはできない。


また、当連合会は、日本政府に対し、女性の地位委員会の一員として選択議定書の本年における採択のために指導的役割を果たすとともに、選択議定書採択の重要性を国民に広く知らせることを求め、当連合会も、選択議定書の採択に向けてできうる限りの努力をする所存である。


1999年(平成11年)2月19日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹