臨界事故発生に関する会長声明

本年9月30日、茨城県東海村の株式会社ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所において、高濃縮ウランの転換作業中に臨界事故が発生し、作業員が大量被曝により急性放射線障害に陥っただけでなく、周辺住民も被曝した。日本の原子力事故史上、初めての重大な事態である。


当連合会は、1998年5月の総会において「日本のプルトニウム政策及びエネルギー政策に関する決議」を採択し、政府に対して、原子力に偏重したエネルギー政策を改め原子力発電に対する財政援助を原則として停止すること、プルトニウムをエネルギー源とする政策を放棄すること、エネルギー政策の立案過程の民主化・透明化を図るためエネルギー政策基本法を制定すること、エネルギーの効率化・再生可能エネルギーの研究開発のための公的助成・電力買取義務の制度化などを提言した。


この史上最悪の原子力事故の発生に鑑み、当連合会は緊急に次の諸点を提言する。


1. 事故の経緯について完全な情報公開と事故原因およびその責任について徹底的な究明を行うこと。
10月2日に、JCOが裏マニュアルを作成して違法な作業を組織的に長期間継続してきたことが明らかとなったが、核分裂性が高く、慎重な上にも慎重な扱いを要求される高濃縮ウランの取扱い工程で、このような規則違反が長期にわたって継続され、それが何らのチェックも受けなかったとすれば、信じがたいことである。
2. 事故調査は当事者以外の独立の第三者機関によって行うこと。
従来の原子力関係事故の原因が、国の安全審査の内容にまで踏み込んで十分究明されなかったのは、事故調査を事業者や科学技術庁の手に委ねたためである。
3. 再発を防止するためにも、他の核燃料サイクル施設を含めて安全性を総点検し、その結果を公表すること。
ウラン濃縮、転換、加工、再処理など核燃料サイクルの各段階の施設の安全審査と運転管理には、未だ明らかになっていない根本的な欠陥が潜在していると言わざるを得ない。
4. 事故発生の自治体への報告と防災対策に万全を期すること。
事故発生の自治体への報告と防災対策が著しく遅れている。一定の範囲では、屋内待機ではなく、事故現場周辺から一刻も早く退避させることが必要だったのではないかと考えられる。
5. 政府並びに関係者は被害の補償に万全を期すること。
今後、長期にわたって事故対策にあたった作業員、被曝した周辺住民の健康管理と周辺地域の汚染状況のチェック、被害の補償を行うべきである。
6. 原子力に偏重したエネルギー政策を改め、再生可能エネルギーの利用促進など新しいエネルギーの研究・実用化を進めること。
原子力関係では、1995年12月のもんじゅ事故、97年3月動燃東海再処理工場事故、99年7月原電敦賀原発事故など重大事故が相次いでいる。今回の事故は内蔵する放射能量も少なく、深刻な事故は発生しないと見られてきた工程においても、このような重大事故が発生することを明らかにし、原子力発電の基本的脆弱性を露呈させた。原子力発電にエネルギーを依存する政策を続ける限り、このような事故の続発は避けられない。政府は、今回の事故を深刻に受けとめ、これを契機に原子力に偏重したエネルギー政策を転換して、再生可能エネルギーの利用推進など新しいエネルギーの研究・実用化を本格的に進めるべきである。

1999年(平成11年)10月8日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹