法制審議会における「『組織的な犯罪に対処するための刑事法』整備要綱骨子」の答申に対する会長談話

本日、法制審議会は、「『組織的な犯罪に対処するための刑事法』整備要綱骨子」を答申した。


当連合会は、本年5月2日、法制審議会刑事法部会での議論の素材とされていた「事務局参考試案」に対して、「『組織的な犯罪に対処するための刑事法』に関する意見書」を発表し、また、答申案が確定される以前の5月23日の当連合会定期総会において「事務局参考試案」に反対する決議を行った。


今回の答申は、法制審議会刑事法部会において、当連合会推薦委員が提起した幾つかの重要な論点を取り入れて「事務局参考試案」に手直しを施したものとなっているが、当連合会の意見書に照らすとき、時期尚早のものや、その新設の当否を含めて、なお論議をつくす必要がある問題点も少なくない。


とりわけ、通信の傍受については、通信の秘密の不可侵、プライバシーの保護及び適正手続の保障など憲法上の刑事諸原則を未だ満たしているとは認め難い内容を有したままである。


諮問の説明によると、立法化が必要な理由として、組織犯罪の多発化、重大化及び組織犯罪対策の国際的協調が掲げられているが、わが国の近年の犯罪情勢は、他の主要国と比較して、悪化しているとは言い難く、国際的要請があるとしても、わが国の状況に見合った対策が必要である。また、その組織犯罪対策は、その組織犯罪の実態を解明し、国の総合的な施策の中で行われるべき問題であり、今回の答申のように、刑事法の分野だけが突出する形での立法は、刑罰の謙抑性という観点からも好ましいことではない。


当連合会は、今後、政府に対し、「組織的な犯罪に対処するための刑事法」の立法化を進めるにあたり、当連合会が意見書で指摘している憲法上、刑事法制上の問題点を克服すべきことを強く求めるとともに、国会審議においても、国民の人権保障上、将来に禍根を残すことのないよう、慎重な論議がなされることを期待するものである。


1997年(平成9年)9月10日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫