「戦時の軍事的性的奴隷制問題に関する報告書」に関する声明

昨日、国連人権委員会「女性に対する暴力とその原因及び結果に関する特別報告官」ラディカ・クマラスワミ氏による、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査に基づく「戦時の軍事的性的奴隷制問題に関する報告書」が発表された。その内容によれば、「従軍慰安婦」問題の解決のために、極めて率直にその解決を提言するものである。


報告書によれば、日本政府への勧告として、(1)「慰安婦」制度が国際法の下で、その義務に違反するものであることを承認すること、(2)害者に対して、ファン・ボーベン報告の基準に基づく補償をすること、(3)「慰安所」に関連する全ての文書・資料を完全に開示すること、(4)名乗り出た被害者女性に対して、公的に謝罪すること、(5)歴史教育を実践すること、(6)「慰安所」への徴募及び収容に関与した犯行者を特定し、処罰することを掲げている。


日弁連は、昨年1月に、「従軍慰安婦」問題に関する提言を発表し、その中で、「慰安婦」問題解決のために、真相究明、公的謝罪、被害者個人への賠償、歴史教育の徹底、常設仲裁裁判所の利用等を提言してきた。今回のクマラスワミ氏の報告書は、日弁連のこの提言を是とするものであり、意を強くするとともに、また、被害者の女性達が求めてきたもの、ICJ(国際法律家委員会)をはじめとするNGOからの提言にあるものとも大方で一致する。これは、この勧告の内容にあるものが、国際社会の中で、「従軍慰安婦」問題の解決の方向を一致して指し示すものとなったことを意味する。


現在、進められている「女性のためのアジア平和国民基金」が、日弁連の提言を満足させるものでないことをこれまでも述べてきたが、今回の報告書の内容は、国際社会の中でも同様に考えられていることをより明らかにした。


日弁連は、この報告書が、国連人権委員会で採択されることを強く望むものであるが、日本政府が、国連人権委員会の正規の勧告がなされるのを待つことなく、自主的にこの報告にそった解決に着手することを求める。いまや解決の方向は指し示された。その実行を逡巡することなく、政府が一日も早く解決への一歩を踏み出すことが、国際社会の中で、日本が名誉ある地位と評価を得る最後の機会であると考える。日弁連は、本問題の解決のために今後とも尽力することを誓うものである。


1996年(平成8年)2月7日


日本弁護士連合会
会長 土屋公献