警察法一部改正に関する声明

去る2月20日、警察法の改正案が閣議決定され、今国会に上程された。


今回の改正案は、オウム真理教関連事件のような広域組織犯罪等への対処を理由とするものであって、新たに国家公安委員会の権限に属する事務として、「広域組織犯罪等に対処するための警察の態勢に関すること」を新設し、警察庁長官に新たに都道府県警察に対する「広域組織犯罪等に対処するための警察の態勢に関する事項について、必要な指示をする」権限を与えようとするものである。


ところで、現行警察法は、1994年(平成6年)6月に、「犯罪の広域化等に効果的に対処する」ことを理由として改正されたばかりであった。この時の改正の効果の内容が何ら明らかにされないまま、わずか1年半後に再び「広域犯罪」を理由として改正がなされようとしていることには疑問なしとしない。 その改正理由とされているオウム真理教関連事件についていえば、とりわけ坂本弁護士一家拉致事件や松本サリン事件に対する警察の捜査が、「個人の生命、身体及び財産の保護」を第一としてなされたかなど、多くの疑義が提起されているところである。これらの疑義に対し、警察は、前記事件捜査に関する情報を公表し、国民の批判・検討に付すべきである。これらの捜査情報が公表されず、捜査への疑義が解明されない状況下において、今回の改正理由をそのまま是認することはできない。


さらに、都道府県警察に対し、「必要な指示をする」権限を警察庁長官に与える改正案は、都道府県公安委員会を中心とする自治体警察制度を形骸化し、警察制度が中央集権化されるのではないかとの危惧を生じさせるものである。 当連合会は、1994年(平成6年)10月の人権擁護大会において、「警察活動と市民の人権に関する宣言」を採択し、公安委員会の形骸化や市民が警察活動を監視する制度が存在していない等の問題を指摘し、警察情報の公開、公安委員会のあり方の抜本的改革、市民による警察監視システムの創設など、民主的コントロールの充実による適正な警察活動の確立を求めた。


今回の警察法の改正案は、その改正の必要性が明らかであるとは言えず、憲法の精神を受けた自治体警察制度を形骸化するおそれもあり、また、「広域組織犯罪等」、「警察の態勢」といった用語が、具体的にどのような範囲・内容を示すものか明らかにされていないなどの問題点を有するものであり、国民的議論のないまま、拙速に進められる今回の改正には反対せざるを得ない。


1996年(平成8年)3月15日


日本弁護士連合会
会長 土屋公献