「臓器の移植に関する法律案」の再提案に関する声明

本年12月11日、「臓器の移植に関する法律案」が国会に提出された。


今回の法律案は、さきの国会で廃案となった「臓器の移植に関する法律案」(旧法律案)について、本年6月に提案された修正案とほぼ同じ内容のものである。その修正案について、当連合会は本年6月16日の声明で見解を明らかにしている。今回の法律案は、「脳死体」からの臓器摘出要件を「死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないとき」とすることなどをその内容としている。


もともと旧法律案は、(1)脳死状態を「人の死」としていること、(2)提供者本人の書面による承諾がなくても、家族の意思だけで脳死状態からの臓器移植を認めていることなどの点で根本的欠陥を有していて、人権擁護上見逃すことのできない問題点があることを当連合会や市民団体がつとに指摘し、その修正を求めてきたところである。


脳死状態からの臓器移植には、本人の書面による承諾を必要として、今回の法律案が提出されたことは、国民の声を一定程度反映した結果であるということができる。


しかしながら、今回の法律案は「死体(脳死体を含む)」(第6条1項)とか、「脳死体以外の死体」(附則第4条)という用語を用いて、依然として脳死状態を「人の死」としていて、旧法律案の持っていた根本的欠陥が是正されたと評価することはできない。今回の法律案は、脳死状態を「人の死」とすることによって、将来的には、臓器提供者の数が確保できないことを理由にして摘出要件を緩和し、家族の意思だけで臓器移植を可能とする途を開くおそれがある。


当連合会は、1995年3月17日(同年10月17日改訂)の意見書において、(1)脳死状態を「人の死」とする社会的合意はできていない、(2)脳死状態からの臓器移植は、ドナーカードなど、臓器提供に関するドナー本人の明確で自発的な意思を確認できる書面がある場合に限る、(3)脳死判定後でも脳死状態の患者があくまでも人権の主体であることを基礎に個人の尊厳を最後まで保ちながら、死を迎えることができるよう留意する、(4)摘出・移植を実施する医療施設は、日常診療においてもカルテの閲覧謄写権、患者の自己決定権など、患者の権利が十分に尊重されている施設でなければならない、との基本的立場を表明し、法律案の問題点を指摘するとともに、臓器移植に関する必須の項目を法律案に対する修正案として提案した。


当連合会は、衆参両院の議員各位が今国会に改めて提出された「臓器の移植に関する法律案」を拙速に成立させることなく、当連合会の提案をも含め法律案の問題点の審議を尽くし、国民に祝福される「臓器移植法」を実現されるよう望むものである。


1996年(平成8年)12月17日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫