らい予防法制の改廃に関する声明

1.

「らい予防法」を中心とするわが国のハンセン病予防法制が、根本的に変革されようとしている。


もともとハンセン病は、伝染力はいたって弱く、1940年代以降は、有効な薬剤の開発もあり、他の感染症と別異に取り扱う医学的必要性は全く存せず、外来治療で充分に対応が可能な疾病である。


2.

しかるに、わが国のハンセン病法制の中核をなす現行「らい予防法」(1953年改正)は、旧「癩予防法」の「絶対隔離主義」をそのままひきつぎ、都道府県知事の療養所への入所命令(6条)、療養所からの外出制限(15条)、所長の秩序維持の権能(16条)を定めている。これがために、ハンセン病患者に対するいわれなき差別と様々な著しい人権侵害が引き起こされた。


ハンセン病の医学的見地に照らせば、現行らい予防法の上記の各条項ならびにハンセン病患者の優生手術を認める優生保護法3条3号は、幸福追求権、身体の自由や移転の自由、法の下の平等、適正手続などを保障した憲法13条、18条、22条、14条、31条、国際人権(自由権)規約7条、9条、10条、26条などに違反する疑いが極めて強い。


3.

従って、今回のらい予防法制の改廃に伴い、国は、次の点に留意すべきである。


  1. 絶対隔離政策の下で、その人生の大半を犠牲にされた患者の方々に対し、現在行われている生活、医療、福祉サービスの水準を維持・発展すべきは当然であり、更にこれらに法的な根拠を与えて、恒久的なものとするべきである。
  2. らい予防の誤った歴史と実態を正しく調査し、いかなる点で、どのように誤りが生じたのかを客観的に解明し、国民の前に公表するべきである。そして、その教訓を今後の公衆衛生行政に反映させ、二度と同じ轍を踏まないことを宣明すべきである。
  3. らい予防法制が作り上げてきた医学的・社会的に不合理な差別・偏見を除去するため、啓蒙、教育活動などの諸施策を強力に展開するべきである。

1996年(平成8年)1月18日


日本弁護士連合会
会長 土屋公献