調布駅前事件控訴審判決に対する会長声明

東京高等裁判所第11刑事部は、1996年7月5日、公訴棄却の判決を受けていた調布駅南口事件の5人の被告人のうちの1人に関する検察官控訴事件について、原判決を破棄し、事件を東京地方裁判所へ差し戻す旨の判決を宣告した。


本事件は、家庭裁判所の保護処分決定は非行事実の認定を誤った冤罪であるとして5人の少年が抗告し、高等裁判所が事実誤認を理由に同保護処分決定を取り消したにもかかわらず、差戻審の補充捜査、検察官送致などを経て起訴され、東京地方裁判所八王子支部において1年余りの審理の末、5人のうち1人について、不利益変更禁止原則違反に基づく違法な起訴であるとする公訴棄却の判決がなされ、検察官が控訴していたものである。


当連合会は、本事件に関し、その少年法の理念と趣旨に反する公訴権の行使について強く遺憾の意を表明するとともに、被告人の度重なる手続からの早期解放の観点から公訴棄却判決の支持を表明してきたところであった。


本判決は、少年保護事件における保護処分決定に対する抗告においても不利益変更禁止の原則の適用があるとしながら、少年法20条に基づく検察官送致は中間的処分であって利益不利益が確定していないので、不利益変更禁止原則違反に該当しないとしている。


しかし、本判決のように、少年が保護処分決定の非行事実認定に不服で抗告をし、抗告裁判所がその抗告を認めたが故の差戻審において検察官送致がなされ、その結果、刑事手続による審理を招くことになれば、少年は抗告の結果への不安とその手続的負担から抗告権の行使を躊躇することになりかねない。これは保護処分決定に少年の抗告権を認めている少年法の趣旨に明らかに反するものである。少年審判手続における少年の権利保障を充実させるべく様々な取り組みを重ねてきた当連合会としては、かかる事態を到底容認し得ない。


抗告権を行使したが故に度重なる手続を余儀なくされている本件被告人(上告審は6回目の審理となる)及び東京地方裁判所八王子支部で審理中の他の4名の被告人を、ともに手続から早期に解放すべく、検察官及び裁判所が適正な権限行使をなすよう強く要望するものである。


1996年(平成8年)7月30日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫