死刑執行に関する会長談話

  1. 1993年3月26日後藤田法務大臣の執行命令によって3名の死刑確定者に対する執行が行われ、我が国の四代の法務大臣の下での3年4か月にわたる死刑執行空白期間は停止された。
    後藤田法務大臣は、国会での質問に答えて「慎重な裁判の結果死刑の宣告が行われている以上、死刑の執行命令は法曹の職責として守っていかなければ、国の秩序は守れない」と再三表明してきた。
  2. ところで、1989年12月国連総会はいわゆる死刑廃止条約を採択するとともに、国連経済社会理事会決議「死刑に直面している者の権利の保護の保障の履行に関する決議」(1989年5月24日)を我が国を含む国連総会出席加盟国全会一致で承認している。
    我が国においても上記条約、同国連決議を契機に死刑制度の是非について議論が高まってきており、上記決議の求める保障と現行制度の問題点についても検討が開始されているところである。かかる状況下で3年4か月にわたり死刑の執行がなされることなく推移してきたものであるから、こうした時期にあえて死刑を執行しなければならない緊要性を見いだすことは困難である。「国の秩序の維持」のみを死刑執行の理由とすることはとうてい余人を納得させ得ないものといわねばならない。
    ましてや今回の執行においては同決議の求める死刑適用に関する情報の公開もなされておらず、すでに執行された一部死刑囚につき、上記決議の求める保障が遵守されていなかったとの疑いも指摘されているところである。
  3. 死刑制度の存廃については、上記条約の批准の是非を含め、国会内外で国民的議論を早急に尽くすべき課題である。したがって当連合会は、今後の死刑執行にあたっては国民的議論が尽くされるまで、その執行を見合すべきと考える。法務大臣が今後死刑執行について慎重の上にも慎重を期され、その執行を差し控えられるよう望むものである。

当連合会は、先に、政治犯、結果的加重犯などに対する死刑を廃止し、殺人、強盗殺人に対してのみ死刑の存置を認める現行刑法の現代用語化案を発表したが、死刑制度存廃自体について会内において早急に論議を高めていくことを表明する。


1993年(平成5年)5月6日


日本弁護士連合会
会長 阿部三郎