テレビ朝日前報道局長の証人喚問に関する会長声明

今般、テレビ朝日の椿貞良前報道局長の日本民間放送連盟(以下「民放連」という)放送番組調査会における発言をめぐり、同調査会の議事録及び録音テープが郵政省の求めに応じて提出され、かつ衆議院政治改革特別委員会において同氏に対する証人喚問が実施されるという異例の事態が発生した。


  1. 報道の自由は、民主主義の根幹たる国民の知る権利に奉仕するものとして憲法で保障されており、国政上も最大限尊重されなければならない。
    報道に関わるマスメディアは主権者たる国民の政治的意思決定に必要かつ十分な情報を提供すべき責務があり、これに対する権力の不当な介入や干渉とそうした危険は未然に排除されなければならない。
    すなわち、言論に対する批判、反論は自由な討論を通じて行うのが民主主義の鉄則であり、多種多様なメディアにおいて国民の参加のもとに論議を重ね、その結果改めるべき点があれば、当該メディアが自主的に解決すべきものと考える。
  2. 今般十分にこのような討議や検討を経ないまま、国会が性急に当事者ならびにその関係者に対し証人喚問などを行ったことは、以上の原則からいっても慎重さを欠くものと言わざるを得ない。今後もこのようなことが繰り返されるならば報道を萎縮させるおそれがあり、これまで報道の自由引いては国民の知る権利の擁護に深く関わってきた当連合会として深い憂慮を禁じ得ない。
    また、郵政省などがテレビが免許事業であることを理由に報道内容などにいたずらに介入することのないよう強く自制を求めたい。
  3. 民放連が設置した放送番組調査会はマスメディアの自律、自治機関であり、マスメディアによる人権侵害をマスメディア自身の努力によって防止することを求めた当連合会の第30回人権擁護大会(昭和62年熊本市)における「人権と報道に関する宣言」の趣旨に沿うものとして高く評価される。
    しかるに、同調査会における発言の詳細が同調査会での十分な討論及び了解を得ることなく公表されたことは、マスメディア自身がその自律、自治を放棄したに等しいものであり、極めて遺憾である。
    民放連は報道の自由の重要性と、それを擁護し発展させるべき責務があることを深く自覚され、報道の自由に対する介入や干渉に対して断固たる態度で臨まれるよう強く要望する。

以上のとおり声明する。


1993年(平成5年)11月19日


日本弁護士連合会
会長 阿部三郎