福井県三方郡美浜原子力発電所事故について

1.

去る2月9日、福井県三方郡美浜町の関西電力美浜原子力発電所2号機(出力50万キロワット)で発生した事故は、わが国で初めて緊急炉心冷却装置(ECCS)を本格的に作動させた重大事故である。


通産省及び関西電力の発表によると、事故は格納容器の中の蒸気発生器の第6支持板付近の細管が金属疲労に因り完全に破断した、いわゆる「ギロチン破断」であり、そのために20数トンの一時冷却水が漏出したと推定されている。また、事故当時、細管の振動を防止する固定金具が設計位置に付けられていなかったことや、2つの加圧器の圧力逃し弁が作動しなかったことも明らかとなっている。


ところで、美浜原発2号機は、加圧水型軽水炉(PWR)であるが、この型には、従来より、内外において、蒸気発生器の細管部分における腐食や減肉による破損の発生が相次いでいる。1987年7月の、米国バージニア州ノースアナ原発1号機の蒸気発生器細管上部の支持板付近の細管が完全に破断した事故が、その典型である。


2.

日弁連は、1976年10月仙台市、1983年10月金沢市、1990年9月旭川市の各人権擁護大会の各シンポジウム並びに大会決議において人権擁護と環境保全の立場から、原子力発電所の危険性等を指摘し、「現在稼働中の原子力施設の運転及び原子力施設建設の中止を含む根本的な再検討を速やかに行うべきこと」などを求めてきたが、かかる見地から、今回の美浜原発2号機の事故に接し、国及び関西電力に対し、次のとおり要請する。


(1) 事故原因が完全に究明されるまで加圧水型軽水炉の操業を停止すること。

わが国では、現在、運転中の加圧水型軽水炉は17基あるが、とくに原発開発の初期に造られた第1世代型9基の老朽化が目立ち、これらの細管の損傷による施栓率が高まっている。このため、関西電力は、大飯原発1号機と高浜原発2号機の蒸気発生器を新しいものと交換する方針であったとのことである


しかも、このような細管の損傷を事前にチェックする方法として採用されている渦電流探傷検査(ECT)では破断の兆候を見つけることはできず、ましてや金属疲労ともなるとお手上げの状態であるといわれている


従って、国及び関西電力は本件事故の原因を徹底的に究明し、この原因が完全に究明されその対策が確立するまで、関西電力は加圧水型軽水炉の原子力発電所の操業を停止させ、国は他の電力会社の設置する同型炉の原子力発電所についても、その操業を停止させるべきである。


(2) 原子力検査体制を抜本的に見直し、人的・物的な充実を図ること。

美浜原発2号機は、昨年4月~7月に電気事業法に基づく定期検査を受けたにもかかわらず、今回の事故が発生した。振れ止め金具については安全審査や定期検査の対象外になっていると発表されている


そうであれば、現行の原子力検査制度に問題がなかったかについて、この際、国は、原子力施設検査官のあり方を含め、現行の原子力検査制度を抜本的に見直し、検査体制の充実を早急に確立すべきである。


(3) 情報公開を徹底し、その法整備を急ぐこと。

報道によると、通産省の調査特別委員会は、今回の事故は「振れ止め金具」がないための金属疲労が原因であると発表している。そして、そこからメーカーの人為ミス説等もとり沙汰されている


しかし、細管破損の原因については専門家の意見も分かれており、現にノースアナ原発1号機の細管破断事故に続く今回の事故で加圧水型軽水炉の構造的欠陥が明らかになったのではないかとの見方も出ている


従って、関西電力は事故に関する情報の全てを公開し、国は事故の責任をただ単にメーカーに押しつけることなく、あらゆる角度からの調査を行うとともに、調査の内容をすべて公開し、科学的批判にさらしたうえで、事故原因の究明をすべきである


これに関連し、わが国では原子力の情報公開を法的に保障するシステムは全くなく、事故の当事者が情報の送り手となり情報の内容や量をコントロールできるようになっていることも問題である


原子力基本法の定める「公開の原則」を実りあるものにするためにも、国レベルにおける情報公開についての法的整備が急がれるべきである。


1991年(平成3年)5月10日


日本弁護士連合会
会長 中坊公平