罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律案に関する件

政府は、「罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律案」を近々国会に提出する予定である。


この法律案は、近年の経済事情の変動に臨みて、現行の罰金及び科料の額等を引上げるものであるが1949年(昭和24)年、1972(昭和47)年の罰金額の改正と違い、罰金等臨時措置法の制定、改正で対応するのではなく、刑法等の各本条を改正するとの立法形式を採用している。


日本弁護士連合会は、1983年11月11日、罰金額の引上げを含む「現行刑法の現代用語化・日弁連試案」を発表し、一昨年6月には、経済実勢に合わせて罰金額の引上げ率を現行罰金額の2.5倍を基準とすることを妥当とする「『罰金刑の見直しについて(参事官室検討案)』に対する見解」をまとめた。また、立法形式については、罪刑法定主義を厳守し、国民に分かり易く、運用上も誤りを少なくするうえから、罰金等臨時措置法の改正によるのではなく、刑法各本条等を改正する形式をとることを積極的に提唱してきた。今回の法律案は、これらの点について、当連合会の考え方と同一であって、原則的に同意できるものである。


ところで、刑事訴訟法は、刑法等三法(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律)の罪とその他の罪を区別せずに、軽微な犯罪について、逮捕・勾留等の要件を厳しくした規定をおいている。しかるに、現行の罰金等臨時措置法は、刑事訴訟法の原則に反し、刑法等三法の罪とその他の罪とを区別し、取扱いを別異にしている。一律に取扱わない問題点は、前回の罰金等臨時措置法の見直しの際にも指摘されているところであって、その際、特別法を整備するまでの間の応急のやむをえない措置として認められたものである。ところが、今回提出された法律案は、この間、特別法の罰則の整備をしないで再び罰金等臨時措置法を踏襲することにしている。これはきわめて遺憾なことである。早急に特別法の整備を図り、刑事訴訟法の原則にたちかえるべきである。


また、当連合会は、今回の罰金額の改正にあわせて、公務執行妨害罪及び財産犯の一部に選択刑として罰金刑を新設すること、罰金の延納、分納を法律上明文化すべきこと、今後の課題として財産刑をめぐる基本問題を討議することを、提案してきた。


これらの課題は、現在、法制審議会刑事法部会において審議検討中であるが、当連合会は、これらの課題とともに「試案」を基礎として、現行刑法が現代用語化されることを、ここに改めて強く要望するものである。


1991年(平成3年)2月22日


日本弁護士連合会
会長 中坊公平