行政情報公開基準の公表について

今般、政府の「情報公開問題に関する連絡会議」は、「行政情報公開基準」をまとめ、国民に対する行政情報の公開・非公開の判断は、この基準により行うことを申し合わせ、これを公表した。


この申し合わせは、「行政に対する国民の信頼の確保及び行政情報の有効利用の観点」から文書を公開するという立場をとっており、そこには情報公開請求権が国民の「知る権利」に基づく憲法上の権利であるとの視点がない。情報公開請求権を法律上の権利として定めず、各省庁が申し合わせた基準により保管文書を非公開にしうると定めているということは、基本的姿勢において誤っているといわざるを得ない。


しかも、この公開基準は、決裁手続等の事案決定手続が終了している文書のみを公開の対象とし、(1)個人が識別できる個人情報(2)企業の競争上の地位・財産権その他利益を害するおそれがあるもの(3)国の安全が害されるおそれがある情報、他国との信頼関係が害されるおそれがある情報等防衛・外交に関する情報(4)犯罪の予防、捜査情報の大部分(5)意思形成過程で得られた情報で公開によって事務事業の意思決定に著しい支障を及ぼすものなどを非公開としているほか、各文書ごとに示される公開・非公開の基準においても「将来の同種事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を非公開とするなど非公開の範囲は極めて広く抽象的である。しかも、「公開基準の運用に当たっての留意事項」として、「公開に要する費用・労力及び他の業務への影響」を勘案して非公開にできるとしている。これは、公開基準を設けるといいながら、むしろ広く非公開事由を挙げ、ほとんどの場合に行政官庁の都合により、非公開にすることができるというお墨付きを与えるものとなっている。しかも、非公開について国民には不服申立てが認められていないのである。


このような公開基準の設定は、従前の政府の処理を追認したものに過ぎず、「行政運営の原則公開」を基礎とする開かれた行政への転換を基本方針とすべきとする臨時行政調査会最終答申の提言にも沿わないものである


国民は、憲法の国民主権の基本原理に基づき、当然に国政について知る権利を有するのであって、情報公開請求権は憲法上の権利である。この国民の基本的権利が行政庁の単なる申し合わせによって制約を受け、しかも国民に不服申し立てや救済手続をなす途が閉ざされていることはきわめて重大な問題である。


日本弁護士連合会は、既に、1980年の第23回人権擁護大会において情報公開法の速やかな制定を求め、さらに昨年の第33回人権擁護大会において情報主催の確立に関する宣言をするなどして、政府が保有する情報を国民に広く公開し、国民の知る権利を実質的に保障する真の情報公開制度の確立を求めてきた。


よって、当連合会は、政府に対し、「行政情報公開基準」による情報非公開の取り扱いを改め、速やかに、国民の知る権利を保障する真の「情報公開法」を制定するよう強く求めるものである。


1991年(平成3年)12月25日


日本弁護士連合会
会長 中坊公平