弁護士任官の発足にあたって

このたび、最高裁判所と法務省の依頼により、日本弁護士連合会は全国の単位会を通じて会員のなかから一定の弁護士経験年数を経た者で裁判官や検察官を希望する者を募集し、それぞれの名簿を最高裁判所と法務省に提出することになりました。


このことは、日本弁護士連合会の発意によるものであり、私達としては、司法改革の一環として、また法曹一元の理念にもとづき、今後、毎年継続して行なおうとするものであります。


いま、私達は司法を市民にとってもっと身近で、もっと分かりやすく、もっと納得できるものにしたいと考え、多方面にわたって活動を続けています。そのためには、市民感覚をもち、人権擁護と社会正義の実現という法曹全体の使命をよく体得した弁護士が数多く裁判官や検察官になっていく必要があります。


これに対して会員の一部には司法の現状のもとでは弁護士から裁判官や検察官になることは、司法のキャリアシステムにまきこまれるだけであり、少なくとも弁護士会が推せんした者は全員採用するという保障がない限り意義は少ないという批判があります。


確かに、日本弁護士連合会が提出した任官希望者名簿に登載された人であっても、最高裁判所や法務省が今回定めた採用選考要綱にもとづく選考の結果、そのまま全員が採用されることにはならないかもしれません。しかし、この点だけにこだわって、弁護士会が候補者を推せんしないでおくべきではないと思います。


私達が、司法の現状について裁判官や検察官のあり方を単に批判しているだけで司法はよくなるのでしょうか。いま私達に求められているのは行動であり、この弁護士任官問題についていえば、私達が自信をもって送りだす人が一人でも多く裁判官や検察官になっていくことではないでしょうか。そしてこの弁護士任官を今後とも定着させ成功させるためには、この問題をめぐる徹底的な論議ときめ細かい配慮による人選が必要であり、またさまざまな困難を克服して任官して下さる方々を評価し、支援していくことが望まれます。


日本弁護士連合会ならびに全国の単位会は、これらの視点をしっかりと見据えて、全国の会員のなかから私達が信頼できる適任者を一人でも多く、継続して送りだしていけるように組織をあげて努力していきたいと考えます。


1991年(平成3年)10月18日


日本弁護士連合会
会長 中坊公平