会員に対する逮捕及び長時間の身柄拘束について

去る6月17日午前11時50分ころ、東京都台東区上野公園水上音楽堂付近路上において、当連合会会員内藤隆弁護士が逮捕され、翌18日午後9時ころまで約33時間身柄を拘束された。


本事案では、逮捕当日、上野公園水上音楽堂において、「今こそ安保をなくそう6・17集会」が開催される予定になっており、警察官(機動隊)によって、同集会参加者に対し検問及び所持品検査が行われていたこと、同弁護士は他2名の弁護士とともに集会主催者からの依頼を受けて違法な検問及び所持品検査を監視する弁護活動に従事していたこと、逮捕直前、約10名の機動隊員が会場付近において集会参加者と思われる学生4名に対し、同意を得ることなく身体や着衣に触れ、所持している鞄を引っ張ったり、ナップザックを開け所持品検査をするなどの行為に及んだこと、内藤弁護士は、それらの状況を現認して直ちに現場にかけつけ、機動隊員に対して、違法な検問であるから止めるように注意するとともに、周囲を取り囲まれて動けなくなっている学生らの側に行くべく取り囲んでいる機動隊員の背後から中に割って入ろうとしたこと、その行動により公務執行妨害罪で現行犯逮捕され、上野警察署に引致されたこと、その際同弁護士は、弁護士記章を背広の胸に付けていたことが認められる。


ところで前記の如き警察による検問・所持品検査については、既に当連合会としては、昭和45年6月3日、憲法が保障する国民の「表現の自由」、「適正手続の保障」、「書類・所持品の不可侵性」に関する基本的人権の侵害である旨、警察庁長官、警視総監等関係者に警告を行っており、同警告より20年を経過した今日においても前記のような検問・所持品検査が行われていることは誠に遺憾であり、関係者に猛省を促すものである。


また、前記内藤弁護士の活動については、弁護士の職務は訴訟関係に限られず、訴訟以前の当事者間の法律問題について、予防的見地から当事者の要請に応える必要があり、更に公衆に対する良き助言者であり、指導者であることが要請されている(昭和63年3月23日付の当連合会の沖縄県警本部長に対する、池宮城紀夫弁護士の逮捕事件に関しての警告)のであって、まさに弁護士としての正当な業務活動である。


本件機動隊員等の同弁護士に対する違法な逮捕及びその後に続く長時間の身柄拘束は、弁護士の正当な職務行為に対する重大な侵害行為であり、一弁護士個人の問題に止まらず、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士全体にとって、到底看過することはできない。


昭和62年の池宮城弁護士違法逮捕に続き、内藤弁護士が違法に逮捕された今回の事件の発生に鑑み、警察庁及び警視庁、各都道府県警本部等関係機関に対して、弁護士の負っている社会的責務に対する理解と弁護士の正当な業務行為の尊重をここに改めて強く要請するものである。


1990年(平成2年)11月14日


日本弁護士連合会
会長 中坊公平