「坂本堤弁護士一家の拉致事件」に関与した「あなた」に訴える

わたしたちは、この事件に関与したあなたの良心に訴えます。


わたしたちは、人が人として有するはずの良心が、あなたにあることを信じたいと思います。


弁護士は、つねに人権を擁護し社会正義を実現しようと努力しています。


ひとびとの紛争が解決し、社会生活を円満に営むことができるように、つねに最善の努力をはらっています。


それがわたしたち弁護士としての仕事であり、使命なのです。


坂本弁護士は、この弁護士としての当然の仕事をしていました。


その仕事がかりにあなたの意に沿わぬ場合には、他の弁護士があなたの利益を守るために働くことでしょう。


あなたの意に沿わない弁護士を実力で拉致し、その身柄を拘束することは、絶対に許されないことであり、いかなる理由を付けてもそれを正当化することはできません。


これは「人間の尊厳」を踏みにじる重大な犯罪行為であり、その責任は極めて重いものであることはあなたも知っているとおりです。


ましてや坂本弁護士の家族の生命や身体、さらに精神状態にもしものことがあればなおさらのことです。


弁護士は、日本の司法制度の重要な一翼を担うものであり、その弁護士の生命、身体を暴力をもって侵害することは、司法制度そのものの否定、ひいては民主主義への重大な挑戦となります。わたしたちは、この雪の降る厳冬の折りに、幼い龍彦君がどうしているのか、寒さに震えていないか、食べるものは十分与えられているのか、ほとんど何も持たずに拉致された坂本夫妻はどうしているのだろうかと本当に心配しています。


あなたの良心を信じ、訴えます!


坂本弁護士一家の安否の情報提供を!


彼らを一刻も早く解放し、彼らの自宅に無事戻すことを!


1990年(平成2年)2月15日


日本弁護士連合会
会長 藤井英男