産業構造審議会の答申について

本日、産業構造審議会は、通産大臣に対し、「訪問販売及び通信販売並びに連鎖販売取引に類似した取引の適正化のための方策について」と題する答申をした。


本答申が、クーリング・オフを現金取引にも適用することなどを採用したことは一定の前進と評価できる。しかし、現在の多発する訪問販売取引被害の救済と防止という観点からは、次の点で甚だ不十分であるといわざるを得ない。


1. 登録制などの開業規制を採用しなかったこと

訪問取引は、消費者の自宅等へ訪問し契約を勧誘するという特殊な取引形態であり、消費者の私生活の平穏を害したり、冷静で合理的な判断を妨げたりする危険性を内在している。近時の訪問取引を巡る消費者被害はそれが顕在化したものである。従って業者は、消費者の自宅等へ訪問し勧誘行為を行うに相応しい資格と信用を保有していなければならないのである。


悪質な業者による参入を防止するとともに、行為規制の実効性を担保し、かつ、事業者や勧誘員に対する行政監督を有効、機動的に行うためにも登録制は不可欠である。


2. 指定商品制を維持したこと

訪問取引を巡る消費者被害は勧誘方法に起因するものであり、商品の種類を問わないものであって、指定商品制はかねてより消費者団体等から強く批判されていたところである。指定商品制は被害が生じて初めて追加指定するという後追い行政にほかならない。本答申は役務を訪問販売法の対象に加えることとしたが、役務の追加指定は商品と比較してより遅れることが必至であり、後追いによる弊害が益々顕著となる。


3. 行為規制の実効性を欠くこと

答申は、長時間にわたる執拗な勧誘、強引な勧誘などの不当な勧誘行為を規制することとし、その実効性を担保する方法として罰則や業務停止命令等の行政監督の制度を設けることとした。しかし、登録制等の開業規制を伴わない行政監督では不十分である。当連合会は、違法不当な勧誘行為がなされた場合に中途解約権や取消権並びに悪質な勧誘に対する特別な賠償請求権を認め、消費者自らがこの権利を行使することによって業者による不当な勧誘行為を抑止することができる旨提唱してきているが、これらの権利についても採用が見送られた。


当連合会は、昨年11月に「訪問取引及び通信取引規制法要綱試案」を公表し、近時の悪質な訪問取引による消費者被害を防止するためには、(1)開業規制と勧誘員登録制の導入、(2)指定商品制の廃止、(3)業務規制、特に勧誘行為規制の強化、(4)消費者被害救済制度の充実強化、の4点の法規制が不可欠であることを提言してきている。


答申が当連合会の意見を一部採用したにとどまったのは、訪問販売に伴う消費者被害の深刻さとひろがりを十分理解しないためであり、遺憾といわざるを得ない。


政府においては消費者被害の根絶と真に健全な訪問取引等の実現のため、かねてより当連合会の提唱している4点についてこれを採用して早急に立法化するよう要望するものである。


1988年(昭和63年)1月29日


日本弁護士連合会
会長 北山六郎